大嫌いな幼馴染と婚約!?〜断ろうと思っていたのに彼の謝罪と溺愛に搦めとられました〜

絶対に負けない(隆文視点)

(はぁっ、まったくあと少しというところで邪魔者が出てくるとは……)

 隆文は仕事中に昨日のことを思い出して、暗く重い溜息をついた。企業内診療室前の自販機のボタンをやや乱暴に押すと、ガゴンという音と共にブラックコーヒーが落ちてくる。

 六十を超えたじいさんを男としてライバル視するのもおかしな話だが、侑奈の憧れ(こころ)を得たという意味では内心穏やかではいられない。

 隆文が歯噛みすると、クスクスと笑いながら悠斗が代わりにコーヒーを取ってくれた。それを受け取り、また重い溜息をつく。


「今日は来る日だったか?」

 彼は我が社の産業医も兼ねているので、気がつくと会社にいる。と言っても週一回くらいだが。

 隆文がコーヒーを飲みながら悠斗の分も買って渡すと、彼がクスリと笑う。

「常勤の牧野(まきの)先生が急用で来られなくなったから僕が来たんだ。それより聞いたよ。侑奈の大学のときの先生に会ったんだって?」
「ああ、敵意剥き出しだったよ。優秀な生徒が政略結婚の道具になって四條製薬グループ(うち)で飼い殺されるのが嫌らしい」

 隆文には悠斗に話すなと言うくせに侑奈も悠斗に話してるんだなと考えながら、自嘲めいた笑いをこぼす。

(何が飼い殺しだ。妻としても研究員としても大切にするに決まってるだろ)
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