私の二度目の人生は幸せです

17 魔法実習


「これは殿下」
「君の名前は?」
「シリカ・ランバートと申します」
「できれば普通に話してもらえないかな?」

えー、そうは言うけど相手はこの国の第1皇子、次の国王候補じゃん。そんな人にタメ口で話して大丈夫なの?

「問題ない、俺が保証しよう」
「そうだよ、ロニなんてボクのことオマエ呼ばわりしてるから大丈夫」

ロニ・ゴットフリートが横から助言してくれた。ずいぶん長いこと一緒にいるんだろうな。ふたりで笑い合っている。

ってか眩しい。ゲームではあくまで画面の向こうにいるアイドルみたいな人たちが実物として目の前に立っている。

「ではレオナード皇子、私になにか用ですか?」
「さっき見てたよ。すごく勇敢な子だなと思ってご挨拶を、ね」

レオナード皇子もサラサを助けに行くかどうか迷ったそうだ。相手はあの有名な幻獣殺しキャム。いくら皇子といえども英雄殿と事を構えるのはこの魔法学院どころかエブラハイム王国にとってもあまり得策とはいえない。

なのに、だ。第3階位貴族(グラッズリエヴロン)のそれも英雄相手に一歩も怯まない女性に驚いたそうだ。上級階位の貴族の令嬢であればレオナードやロニが顔くらいは見覚えがあるはずだが、見たことがないので下級階位の貴族か平民のはず。彼に盾突く前に見せた魔法も鮮やかだったので、是非友人になりたいと申し出てきた。

これって、フラグが立ったんじゃ……。いやいやレオナード皇子はサラサの方へ関心向けてくれなきゃ、彼女を救えなくなるんですけど……まあ、イヤな気持ちにはならない。

「では、また授業で」
「ええ」

よかった……軽い挨拶だけで済んだ。明日からサラサをどう皇子にアピールしていくかを考えなきゃ。

 ✜

翌日からさっそく授業が始まった。

3クラスに分かれていて、私はここでようやくサラサと一緒になれた。レオナード皇子とロニも一緒なのでサラサを売り込むには最高の環境だといえる。

──ただひとつを除いて。

キャムまで同じクラスとは皮肉なものだ。それも理由はわからないが、彼の取り巻きとしてなんとメガネ男子ミラノ・ハイデンとスポーツマン日焼け爽やかイケメンのウェイク・ルーズベルトがいる。ゲームのなかではキャムとこのふたりには何の関係性もなかったのにいったい何が起きているのだろう?

講義の内容は魔法応用学Ⅰや魔法薬学、魔法生物学、古代語Ⅰ、世界史Ⅱ、大陸史Ⅱ、亜人語など私にとっては退屈な内容だが復習もかねて真剣に取り組む。

サラサは講義の時は私と私のルームメイト、エマ・リュールと行動をともにしているのでキャムからの嫌がらせなどは今のところ特にない。

順調な魔法学院生活を送って2週間が経過した。

「ではこれより魔法実習を行う」

まだ1年生なので、魔力を純粋な塊にして10メートル先の木でできた人形に当てるという内容になっている。

レオナード皇子やロニなど一部の王族、貴族は中等部で実習してきたのでお手のものらしく的にしっかり当てている。なかでも皇子の側近ロニとメガネクール男子ミラノは木の人形の一部を破壊するほどの魔力総量と出力を持っていた。

3人並んで魔力を放っているが、クラスの半分くらいの生徒は的にすら届かない。

順番はランダムで教師にエマとキャムが同時に呼ばれた。

「えい」

エマが精いっぱい魔力を飛ばすとしっかりと的に当たった。彼女は第5階位貴族(ギルバントミール)の家のものなので、彼女自身がなかなかに優秀だと思われる。

「オラ、行くぞぉぉ」

魔力は無闇に解放してはいけない。だがキャムはお構いなしに魔力を全力で解放した。ビリビリと伝わる魔圧が生徒たちに伝わり多くのものを怯えさせている。

「ウラァァ!」

ドゴン、と音を立ててキャムの放った魔力の塊は的である木で出来た人形を外したが背後の壁に衝突、小さなくぼみを作った。純粋な魔力の塊は空気中でどんどん減衰していくので20メートルは距離がある奥の壁に当たってあの威力なら一般の生徒ならさぞ驚くだろう。

「すげぇ……さすが幻獣殺し」

生徒のひとりがポツリとつぶやくと周囲で拍手と歓声が沸き上がった。


< 17 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop