私の二度目の人生は幸せです

21 湖の主


 釣れない……。

 釣り始めて50分経ったが、ウキがピクリとも動かない。

 ここって魚がいないんじゃ、と難癖をつけたくなるが、釣れているひとはちゃんと釣れている。

 なんでレオナード皇子だけあんなにたくさん釣れるの? 私って一応、転生前の子どもの頃、父親に結構釣りに連れて行ったもらってたので実はちょっと自信があったんだけどな……。

 ちなみにキャムも釣れていない。それはいい気味なのだが、自分だけ釣りしてサラサにボートを漕がせている。アイツのサラサに対する高圧的な態度は許せない。

 まあ私はウェイクの好意に甘んじて釣り竿をずっと握っているが、それは置いておく……。ミラノ、エマ班もさっぱり釣れてないので、このままではレオナード皇子、ロニ班の圧勝で終わってしまう。なんとか一匹でもいいから釣りたい。

 ピクッ、とここにきて、ようやくウキが水面で波紋を立たせて弾む。私の両目は視線でウキを壊せるんじゃないかというくらい熱い視線でウキを凝視する。

 来たっ!? ウキが沈みギュンと竿が曲がる。私はラインと釣り竿が切れたり、折れたりしないように強化魔法をかける。

「おいおいおい、大丈夫かこれ?」

 ウェイクのいう通り、カエルのボートが高速艇と見間違うくらいのスピードで湖内をグルグルと引きずられている。

 よし、ちょっと本気出す。

(アル、お願い)
(いいですよ)

始源よ、(始源よ、)水の子らの礎となりて(視えざる手の万力を与し)固き岩となれ(其を掴み上げん)
雷よ、(風よ、)彼を撃て(其を運べ)

 ふたりとも二重奏(デュオチャント)を実行しているので知らない人からみたら〝四重奏〟(カルテットチャント)を行使しているようにみえるだろう。アールグレイの方は魔法陣起動による補助で詠唱文をだいぶ端折(はしょ)って唱えた。

 まずアールグレイの雷の魔法で魚を一瞬麻痺させる。続いて私の魔法でカエルボートに接している水面を岩のように固めて、強化したラインと釣り竿を思い切り引き上げる。パワーアップした遠隔操作のサポートもあって巨大な魚影が水面から噴きあがり、アールグレイの風魔法で岸まで吹き飛ばした。

 男性陣のほとんどは「え……」と呟き立ち尽くし、エマはあまりのことに思考が停止して氷像のように固まって気を失いかねない。キャムは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。唯一、サラサだけはその昔、私の本気を見ているので表情を変えない。

「あれあれ~? 大きなお魚さんが釣れちゃった、てへッ♪」
「「「「イヤイヤイヤ……」」」」

 レオナード皇子やロニ、ミラノ、ウェイクが手を横に振っている。

 少しやり過ぎたか? ──つい熱くなってしまった。

 釣り上げた魚は持ち帰っていいことになっているが、正直、食べきれないし、ちょっと大きすぎて気持ち悪い。

 結局、湖の(ぬし)を湖に返して、レオナード皇子が大量に釣った魚を夕飯にしようという話になった。

 ラトエの街入り口にある噴水広場はその周囲が色々なお店が並んでいるので、さっそく夕飯の買い出しを行う。ちなみに別荘滞在中の食費はレオナード皇子が持ってくれることになっている。さすが皇子。

 買い出しが終わり別荘へ戻る途中、サラサとエマの3人で並んで歩いている私の隣へ爽やかスポーツマン、ウェイクがやってきた。

「シリカ、俺、お前のことが気に入った」

 何人か「ブッ」と変な反応が聞こえたが、私もそれどころではない。

「え、え? どういうこと?」
「俺は強い女が好きだ」

 は、はぁ……。なんか、ようわからん。

「あははっ」と笑ってごまかし、「ところでさぁ」とサラサ達の方へ会話を振った。

「エマが昨日話してた怖い場所って本当にあるの?」
「はい、夕食を食べたら皆さんをお誘いしようと思っていました」

 え、ヤダ……だってお化けがいるんでしょ?

「お、シリカ。ビビってやがる。怖い系が苦手って草」

 キャムが私を煽る。ってか「草」と言ってもみんな分からんと思うぞ?

 周囲にバレてしまっているが、私は怖いものが苦手だ。前世ではホラー系のアニメや映画は好きだが、それは怖いものみたさ……実際、心霊スポットに足を運ぶなんて恐ろしくできやしない。

 いいいい、いいだろう望むところだ。受けて立ってやる。

 こうして余計な意地を張った私は夕食のあと、とても後悔する羽目になった。



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