私の二度目の人生は幸せです
25 魔法競技
翌日、キャムが目を覚ました。
キャムの証言によると、中央の魔法障壁を破った人物が黒く四角い箱を投げ入れてきてそこから大量のレッドホーネットが現れたそうだ。
黒い四角の箱と聞いたので私には分かった。魔物を閉じ込めておくことができる〝虚櫃〟だと考えられる。虚櫃は封じて再解放すると箱そのものが消えてなくなるマジックアイテム。閉じ込められる魔物の数と強さは使用者の魔力の高さによって変わってくる。あんな大量のレッドホーネットをひとつの箱に入れていたので恐ろしく強い魔法の使い手だったと想像できる。
いったい誰なんだろう……目的は?
建物に侵入した人物は黒いフードを深く被っていたので顔まで見れなかったらしいが、もしキャムが死んでいたら事故で処理されるところだった。
せっかくの大型連休だったが、襲撃事件が起きた以上はそのまま滞在するわけにもいかない。レオナード皇子の護衛として王都デルタからウェイクの父親が率いる森梟魔法騎士団の精鋭が10名、ラトエの街へ迎えにきた。私たちも一緒に護衛付きの馬車に乗り王都デルタへと帰った。
✜
4日後、パルミッツ国立魔法高等学院の教室で講義が始まる前に転校生と新任の教師が同時に紹介された。
魔法生物学を担当するラーゼ・ミットファン先生とオポト・カナカナ。メガネをかけた厳しそうな肌の黒いラーゼ先生とは対照的にフワフワとした印象で眉が垂れ下がったオポトはカラダが他のひとより少し小さく、その日の夕方には早くも女子生徒の人気を集めていた。
彼は隣国の剣と鎚の国ドォルドーの交換留学生で、一般的な魔法よりも付与魔法が得意なんだそうだ。
1学期ももうすぐ終わりという時期になって魔法実習では魔法競技が始まった。
魔法競技の中には色々あって、補助魔法なしでカラダを浮遊させてトラックをひたすら飛ぶ持久飛行や空手のような打撃技を習うドレイザ。ドッジボールとサッカーをくっつけたようなトラパルカンという不思議な競技もある。
そして今日はトラパルカンを実際にやる日だった。
フィールドの大きさはサッカー場をひと回り小さくしたくらいの広さで、サッカーでいうゴールのところに2メートルくらいのキャッスルと呼ばれる半円がある。その中にキングと呼ばれるポジションがいて、基本相手チームのキングに当てたら、1点が入る。キングは避けることのみ許されている。
次にノーマルフィールドを自由に移動できるポーンと呼ばれるポジション。ポーンは4人で足は使えるが手は使えない。相手陣地に8メートルを半円にしたペナルティエリアがあり、その中には入れず外からボールを蹴ってキングに当てないといけない。
最後にナイトというポジションが2人いて、自陣のペナルティエリア内で手足を使ってキングを守る。
チーム合計7人で行う競技なので、クラスを4チームに教師が分けた。
私はミラノやオポトという転校生と同じチームになり、対戦チームはレオナード皇子、サラサ、キャム、エマなどがいる。
どちらのチームも攻撃陣は女性で守るのは男性陣といった布陣になる。
試合が始まると私がすばやく動き相手チームのパスを簡単にカットした。このトラパルカンは魔法は身体強化のみ認められているので、私の動きは二重奏によりフィジカル強化と脚力強化を掛けていて並の生徒と比べると魔法の瞬間出力も突出している。身体強化系に魔法の瞬間出力がどう関係するかという運動神経のなかでいう瞬発力のようなものと小さい頃賢者バロアに教えてもらった。
前に立ちはだかったエマを一瞬で抜き去り、距離を取って抜かれないように粘ろうとしたサラサはこちらから敢えて近づいて大きなフェイントで無理やり抜いた。大きな動きは隙が生まれやすいのでリスクが伴うが私のカラダに掛かった反則的な身体強化魔法が多少強引な攻めを可能にした。
ポーンを全員抜き去るとキャムともうひとりのナイト役が私のシュートコースを塞ごうと直線上にカラダを入れてくる。キング役はレオナード皇子。
「オラァ、どっからでも撃ってきやがれ! この牝ゴリラがぁぁ!」
地面とボールの接触面に一瞬火がついたかもしれない……。
ボールがひしゃげたあと、音の壁を超えたか? という速さでキャムの腹部にめり込んだ。
「ギョフゥゥゥ!?」と変な声を出して、キャムが沈んだあと、もう一度足元に戻ってきたボールを蹴る。レオナード皇子に意表を衝いた縦回転のかかったボールを肩に優しく当てた。
「……て、てめぇシリカ、今のワザとだな?」
「さて? なんの話だか」
牝ゴリラね、私の復讐メモリーに記憶しておこう……。