私の二度目の人生は幸せです
27 身辺調査
「教師が怪しいと思う」
レオナード皇子が最初に発言した。
今日はパルミッツ魔法高等学院すべての講義や実習が中止となり、王国騎士と兵士が来るまで全員階段のそばで待機となっている。
「まあ、生徒だけ疑うのも盲点だと私も思います」
ミラノがレオナード皇子の仮説に同調した。たしかに生徒だけを取り調べて教師たちが野放しではあまりにもずさんな調べ方だ。王国騎士団の人たちが教師陣も取り調べするだろうがあくまで通過儀礼のようなものに過ぎないだろう。
ちなみに外部の人間でないことはたしかだ。このパルミッツ魔法高等学院は3百年の歴史のなかで部外者の侵入を許したことがないと授業で習った。それを可能にするのは幾重にも張り巡らされた厳重な魔法の結界によるもの。
「そうなると一番怪しいのは……」
「うん、ラーゼ先生だろうね」
ロニが確認するように質問するとレオナード皇子がうなずいた。私もそう思う。最近この学院にやってきたばかりで、先ほど魔法生物学でのマンドレイクの暴発もあの先生が運んできた。それに先ほどの石像倒壊は魔法生物学の教室の真下であり、階段の上にある魔法生物学の実習室にいたのはラーゼ先生のみ。
「でも真っ先に疑われるよね普通?」
「うん、でも仮に教師陣がそれに気が付いてないならボク達で彼の正体を暴けないだろうか?」
私の真っ当な質問を受けたうえで、みんなで調べてみないか? とレオナード皇子の提案を受けたので皆、乗り気だがなぜかキャムだけ嫌そうな顔をした。彼の行動でミラノとウェイクが急に態度を変え「やはり教師を疑うのは私とウェイクはやめておきます」とレオナード皇子の提案を辞退した。
自分達で動くのに賛成したのは結局レオナード皇子、ロニ、サラサ、エマと私シリカの5人となり手分けしてラーゼ先生の身辺を調べるのことになった。
それから1時間ほど経って、魔法騎士団や魔法兵が学院に到着して、1週間の厳戒態勢が敷かれることになった。
1週間続いた魔法騎士団と魔法兵の警備の間、事件は特に起きず、態勢が解除された。その間に私たちが各自で調べた内容を共有するため、歌劇食堂の端っこに固まって食事を始めた。
レオナード皇子とロニが調べたところ、ラーゼ先生の前職は他の私立の魔法学院などではなく経歴を調べても出てこなかったそうだ。
サラサは魔法生物学の講義時間にラーゼ先生から前に呼ばれて魔法植物の種に促進魔法を照射する実習で間違えたフリして光魔法の悪意感知を先生に掛けたら、数値が「7」と出たそうだ。人間の悪意を10段階に分類できる魔法で一般のひとでも平均で3から5。なので7というのは犯罪に手を染めていてもおかしくない値であることがわかった。
私はエマと一緒にラーゼ先生に分からないところがあるので教えて欲しいと言って何度も研究室へ足を運んだ。彼の過去の情報を引き出そうとしつつ、言葉と行動にズレがないかを注意深く観察する。噓つきは言葉と行動が一致しないことが多い。王立図書館に通っている頃、「詐欺師の生態」という本を熟読した。今なら前世でキャム……瀧亞瑠斗の言動と行動の不一致を見抜けるが当時の私はひとを疑うという行為自体を無意識に避けていた節がある。
私がその知識に基づき探りを入れた結果、「黒」だった。犯人と断定できるわけではなく、あくまでも私達生徒になにかを隠している、というレベルだが、その隠し事を知られたくないという気持ちが強いというところまではわかった。
以上の各個人で調べた情報を突き合わせると限りなく怪しい。この情報を元に他の教師や校長へ相談するのも手だが、勘づかれて学院から逃亡してしまう可能性も考えられる。
「それなら今度の闘技大会で決定的証拠を本人にみせてもらえばいいんんじゃない?」
闘技大会というのは、1学期末に行われる魔法を使用した格闘で上位を競う大会でエントリーは任意なので全校生徒が出場するわけではない。
その大会で優勝したチームは教師陣と対戦する権利を与えられる。生徒5人に対して教師は3人でたしか今年の大会ではラーゼ先生が教師チームに入っていると聞いた。