私の二度目の人生は幸せです
29 真実
仮にウェイクの素の身体能力を100とすると私は10あるかどうかだと思う。次に彼の魔法瞬間出力は300だとすると彼の実力は100×300で30,000となる。
一方、私の方は身体能力は10だが魔法瞬間出力が3,000で10×3,000……つまり同じくらいの30,000くらいになるはずだが、私には二重奏という高位の魔法使いが行使できる魔法で倍掛けした挙句、「慣性力操作」という魔法を自身に掛けている。
それが何を意味するかというと倍くらいの純粋なパワーに差があるうえ、同じ動きをしても加速にかかる抵抗……慣性力がない私はウェイクよりも圧倒的に速く動ける。格闘技術は向こうがはるかに上だが、それでも埋まらない彼我の実力差がある。
森のなかから飛び出し、岩山にふたりとも駆け上がりながら戦闘を続ける。多少の手加減をしつつ、どうやってこの戦闘をウェイクに怪我をさせないように決着をつけようかと悩んでいた。
崖の近くでウェイクの動きに焦りがみえた瞬間、足を踏み外して岩山の崖から落ちてしまった。魔法で身体を強化しているとは無事では済まない。私はやむなく遠隔魔法を唱え、ウェイクをゆっくりと地上へ下ろした。
「シリカ・ランバート。遠隔魔法の使用により失格」
残念、私は失格になったがレオナード皇子やロニが頑張ってくれたら何とか予選は突破できるかもしれない。
「仲間のみんな悪りぃな、フェアじゃないから俺も棄権するわ」
地面に降り立ったウェイクが棄権を意味するハンドサインを送ると、私に続いて失格とドローン型の魔法で浮いているカメラから音声が流れた。
男らしいなウェイク……こんな男子が前世で私のそばにいたら、胸キュンしちゃってたかも……。
岩山から降りてウェイクと闘技場の外へ出ようと移動を始めた途端、空が真っ赤に点滅しはじめた。
「カメラの異常を確認、直ちに試合を中断して下さい。繰り返します……」
カメラの異常? 私やウェイクにはカメラがちゃんと3台ずつ飛んでついてきてるけど?
イヤな予感がする。ウェイクとふたりで他のひとと合流しようと走り始めた。
偶然もいいところだが、走り始めて1分もしないうちに問題になっている場所に出くわした。動けなくなって地面を這っているキャムを挟んで魔法生物学のラーゼ教授とオポトが対峙している。
なぜこんなところにラーゼ先生が? と考える必要はなかった。そもそも闘技大会中のフィールドに教師がいることがおかしい。そう思い至って実行にいち早く移したのはウェイクだった。
大声をあげながら、オポトから注意を逸らしつつ突撃する。ラーゼは第三者の介入に舌打ちして手に持っている杖の先をウェイクに向けると衝撃波を放つとウェイクに当たりオポトの方へ吹き飛んだ。
「ウェイク、やめろ」
「大丈夫、教師だろうが俺がぶっ飛ばしてやるよ」
「違う、オッサンじゃねー」
「カハッ」
ウェイクは背後から巨大なハンマーで殴られ、一撃で地面に頭がめり込み気絶した。今の一撃は並の生徒なら死んでいたと思う。
「時間がない、はやく死ね」
「させるか」
魔法で生成した巨大なハンマーを振り回すオポトにラーゼが魔法で迎撃する。魔法の詠唱を許してくれない相手に対しラーゼは純粋な魔力を衝撃波に変えてオポトにぶつけた。オポトは振り下ろそうとしたハンマーごと後ろへ吹き飛ばされる。
「オポト、あなた……」
「もう1匹増えたか」
いつものオポトと全然違う。私はまだ魔紋を見抜く技術を会得できてないが、その殺意の籠った魔力はオポトがこれまで隠し持っていたとは思えない。オポトを騙った偽物かもしれない。
最初に私を始末した方が良いと判断したらしい。オポトが真っすぐ私のところへ突撃してきた。
スピードはとても速い……でも手遅れ。
私だって時間をかければ賢者アールグレイの真似事くらいできる。ウェイクが倒された時点で準備を始めていた。足元に魔法陣を2個描く時間があった。
高速詠唱により、オポトが距離を詰める前に私の魔法が完成すると、十数本の大きな水柱が周りにできた。
オポトはそれを見て、一瞬でこれ以上の戦闘は無理だと判断し、逃亡を図る。でもそれは予想の範囲内。
オポトは水柱のエリアを抜け出す前に水柱から自動で繰り出される無数の水の刃に切り刻まれ、地に伏した。そこに私が水でできた魔法の弾丸を大量に撃ちこみ、無力化させた。
オポトが気絶したあと、すぐに魔法の縄で彼を拘束した。しばらくその場で待っていると他の教師たちがやってきて、気を失ったオポトやキャム、ウェイクを連れていった。