私の二度目の人生は幸せです
31 悪役令嬢
私のまわりにいる男子って転校生のオポト以外は全員、上位貴族ばかりでその中に皇子まで混ざっちゃってるし、他の女子からの嫉妬が恐ろしい。
まあ同学年ならこの数か月で私に敵意をあからさまに向けてくるものはいなくなったので、周りにいるサラサやエマもイジメに遭わずに済んでいる。
──だと思っていたのだが。
「アナタが下位貴族の子?」
誰? 私がボーっと知らない女子を見ていたら、近くにいたロニが助け船を出してくれた。
「これはアンナさま、どうされましたか?」
「あら、ロニ……息災のようでなによりだわ、レオはどこ?」
「殿下は今、隣の部屋で着替えをなさっています」
見覚えがないのでよく胸につけているバッジをみたら3年生だった。
レオナード皇子は、その前の時間が魔法実習だったが、転んでしまったのでシャワーを浴びている。レオナード皇子をレオと呼び捨てにするということは王族なのかもしれない。だが乙女ゲーでは一度も登場しなかった女性だ。
「そう、それよりこの下位貴族の子がレオのお気に入りなの?」
「初めまして、シリカ・ランバートと申します」
「ランバート? 聞いたことがないわね」
ところでいったいなにをしに来たのかというとレオナード皇子やロニを茶会に誘うためにやってきたそうだ。うーん、それは困る。今や私のまわりには他の男子が寄り付かなくなっているので、レーゼの花がもらえず、デザートの権利を失うかもしれないという世にも恐ろしい問題が発生する。
茶会は女子側も男子側も掛け持ちはダメなので、ここでこの3年生にレオナード皇子を奪われたらロニまで失ってしまう。かといってウェイクやミラノはなぜかキャムに付き従っているし……。あのふたりを誘うとキャムまでセットでついてくる……前から思っていたが、ミラノとウェイクってキャムのことを慕っているようには見えないが彼の命令を渋々聞いている感じがするのは気のせいだろうか?
「アナタ、レオを茶会に誘おうなんて、出過ぎた真似をしないわよね?」
「いえ、お誘いしようと思ってましたが?」
「なんて図々しい。身の程を弁えなさい。この下位貴族風情が!」
おお、なんて清々しいまでの悪役令嬢っぷり……乙女ゲーで登場すると爆笑ものだが、実際目の前に立たれて罵倒されるとなんだか腹が立ってくる。
「それとアナタが光の聖女さん? 貴族なのかしら?」
「サラサと申します。テイラー家にお仕えしております」
「ああ、そういえばどこかの品のない貴族の下僕がそんな名前だったかしら」
ダメだこりゃ……同じ学年じゃなくてよかった。間違ってぶっ飛ばしてしまいそう。私のことならまだしもサラサのことを言われると本当に手が出てしまいそうになる。
「おい、品のない貴族って俺のことか?」
「第2階位貴族である私に向かってなんて口の利き方なの」
「知らねー、アンタ誰なんだよ?」
キャムが割って入ってきた。いいぞ毒には毒を以って制すという言葉がぴったりなシチュエーション。
「私はアンナ・テルバトス、レオナード皇子の遠縁にあたるものよ」
「だったらなんだよ? 自慢するほどのモンじゃないだろ」
「あら、英雄なんて呼ばれて調子に乗ってるだけあって無知なのね、許してあげるわ」
「アンナさま、そろそろ休み時間が終わるのでは?」
「そうね……ロニ、また放課後に来るとレオに伝えて」
そう言って悪役令嬢を地でいくアンナ嬢が去っていった。イヤだなー放課後また来るんだ……。
「ミラノ、あの女の目的はなんだ?」
「はい、恐らくですが……」
キャムに聞かれてミラノが答える。ミラノの推測では彼女は現在、第2階位貴族の身分だが、彼女の代で王族あるいは第1、第2階位の貴族と結婚しないと階位が第3階位以下に落ちてしまうらしく、レオナード皇子の妃の座を狙っているとみて間違いないそうだ。
サラサも大変だなー。うまくレオナード皇子と結ばれても宮廷のなかは魔窟っぽいな。
放課後、宣言した通り、1年のホームである講義室で1日の講義が終わると同時にアンナがやってきた。今度は取り巻きを4人も連れている。
「場所を変えましょうか?」
レオナード皇子が周囲に気を遣い、講義室を出ようとするとキャムと私を指差した。
「アナタとアナタもついてきなさい」