私の二度目の人生は幸せです
33 財宝
湖底宮殿というのは王都デルタの真下……デルタ湖の底にある古代人が建設したとされる建造物で、湖底に露出されている建物は宮殿のほんの一部になっている。地底に地下迷宮のように何十層にも渡って広がっていると王立図書館で読んだ。
湖底宮殿は地下3階までは一般開放されていて、デルタ城の隣にある魔法で動くエレベーターで本当はひとり8銅貨のところを学割で6銅貨支払い、湖底宮殿まで降りた。
地下1階に到着した私たちは地下1階を素通りして地下2階へ降りる。この時代では賢者アールグレイしか知らない魔法の解除キーを唱えると何の変哲もない通路の壁が半透明に透けて見えるようになった。そこからすぐに中へ入ると再び魔法のロックがかかって入口が消えてしまった。
「シリカしゃん、本当に大丈夫でしゅか?」
エマがかなり緊張してしまって「でしゅ」口調になっている。私は「大丈夫、たぶん……」と彼女の心配性にトドメを刺すセリフを吐いてエマを余計に怖がらせてしまった。
(ここから転移します)
部屋の奥、壁に楕円形の大きな鏡がある。先ほどと同じく念話でアールグレイに教えてもらった別の解除キーを唱えると鏡面が白く光りはじめたので、中に飛び込んだ。
転移した先はじめじめとしており、部屋のどこかが崩れてそこから湿気が流れこんでいるかもしれない。
(おや、300年で部屋に魔物が巣食ったようですね)
アールグレイの指摘どおり私たちの目の前には透明で巨大なスライムがいた。
服を溶かす系のスライム。こんなん出てきて誰得だよ? と私は心のなかで呟き、お約束が発動しないよう普段あまり使わない炎系の魔法の詠唱を紡ぎはじめた。
「きゃぁ!?」
これは何か私には抗えない大きなチカラが働いているとしか言いようがない。サラサが私の詠唱の時間稼ぎのために少し横へ移動しようとしたらエマとぶつかってふたりとも転び、スライムにドプンと飲み込まれた。
「始原よ、逆巻く炎禍となりて其を刻削せよ……〝焔旋〟」
炎の竜巻が巨大なスライムを捻じり切り刻んでいく。ある程度スライムの体積を減らし、コアを炎の槍で撃ち抜いたら、サラサとエマが●●●な姿で床に落ちた。少しスライムの粘液を飲みこんでしまったらしく、口から粘液を咳き込みながら吐き出している。
私は亜空間魔法〝魔女の大鍋〟から普段持ち歩いている着替えをふたりに渡した。
彼女らが服を着ている間に私は部屋の奥にある透明なガラスのような素材でできた柱へ近づく。
なかに金銀財宝がいっぱい入ってる。これってすごい価値になるんじゃ……。
顔をその柱に近づけると反射した私のうしろに見覚えのある男性がいる。慌てて振り返ったが誰もいない。
「私の姿が反射しているようですね」
5歳の頃にみた死の太守の姿よりも生き生きとした表情で、肌の色にも生気を感じる。ちなみに彼の声が肉声となって聞こえているので着替えが終わったサラサとエマも柱のそばへやってきた。
「シリカ、この方は?」
「実は……」
エマに聞かれたのでアールグレイをちらりと見て、うなずいたのを確認してから説明を始めた。300年前にベルルクの街周辺を治めていた領主の息子であること。優秀な魔法使いだったが、今は〝反・六道輪廻〟で星幽体のカラダになった死の太守になったこと。そして私と10年前に知り合い、ブリキ人形に憑依していることを一気に説明した。
「じゃあこの宝は……」
「私の資産です」
マジックアイテムはアールグレイが回収し、残りのものを私の好きに使っていいと言われた。エマとサラサにはここまでついてきてもらったお礼として、エマにサボットと呼ばれる水面を歩ける魔女の靴とサラサへ精神抵抗を上げる魔法のペンダントをプレゼントしていた。