私の二度目の人生は幸せです
34 オルタナ
アールグレイに金銀財宝とマジックアイテムを分別してもらいそれぞれの亜空間魔法で収納し、引き返した。一度湖底神殿の地下2階に戻った私たちは上へ戻らず、さらに地下3階へ降りた。
外はすでに夜になっているのか、ひとがまったくいない。地下3階までは魔法による強固な結界が張られているので、地下3階までは24時間立ち入っても特に問題はない。
この場所は家族で一緒に訪れたことがある。
龍の頭だけが壁から出ていて口から水が勢いよく噴き出している噴水広場を見ると懐かしい思い出がよみがえる。ここは王都デルタに住んでいない都民以外のひとも一度は訪れる有名な観光スポットになっている。
「歴史の代行者よ、汝の示す理をここに徴せ」
アールグレイが古代語でそう唱えると、龍頭から流れ出る水に少しだけ湯気のような煙が立ち昇り始めた。
(3人ともこの水に触れてみてください)
アールグレイの念話内容をふたりに伝え、言われたとおり3人とも噴水へ手を伸ばすと、エマとサラサが触れた部分が白く光ったが、私は無色透明なままだった。
「やはりシリカは異界から魂が運ばれてきた渡界人なんですね」
この世界には太古から何度も渡界人と呼ばれる人間が現れ、国を興したり、神の子を騙るもの、中には魔王と名乗り、人々を苦しめるものもいたそうだ。
それにしては変だ。私はずっと魔法図書館に毎日のように通っていたのに渡界人に触れている文献を一度も目にしていない。
「光の聖女と渡界人が同じ時代、同じ場所にいるのにはきっと意味があると思います」
乙女ゲーとまったく同じ異世界に転生したのでそういう意味なのかな? そもそもゲームと同じ世界に転生したのはいまだに謎だが、ゲームの世界に転生を選択した時は瀧……キャムへの怒りで我を失っていた感は否めない。たしかに普通に考えたら変な話である。
湖底宮殿を出たら夜になっていた。パルミッツ学院の門限は過ぎているので門が閉まっている。
外泊届けは出しているので問題ないが思ったより早く終わってしまったので、近くの24時間営業している大型百貨店に向かった。
前世のデパートと違って高層型の建物ではなく、遊歩道のついたモール型の商店街風になっている。王都デルタは湖の周辺にある住宅街からの魔導列車や都市内の水路など公共交通が混まないよう就労時間が昼、夜、深夜&早朝と3つに区分されているため、お店も24時間空きっぱなしなところが多い。
まずパルミッツ国立魔法高等学院指定の魔法用具専門店に入る。
このお店では購入時の学割にプラスアルファがあるので、生徒たちはこのお店をよく利用している。
今日は学院で使う魔法用具を買いに来たわけではなく、ネックレスや宝石といったアールグレイから譲ってもらったものを少しだけ売りにきた。買い取り額も1割ほど他よりも高い取ってくれるので、貴族階級じゃない貧乏な学生たちは都市郊外にあるダンジョンなどで手に入れた財宝をここで売るものも多い。
ネックレス、指輪、宝石各種……合計5点で11白金貨に換金できた。アールグレイの財産を全部売ったら、たぶん街をひとつ作れるんじゃないだろうか……。
潤沢な軍資金を手に高級茶器店やインテリア専門店、3ツ星スイーツ店を回った。茶会までまだ日があるので生ものは当日の朝に家まで配達するよう注文した。ひと通り終わったので朝まで魔法に関係する本がたくさん置いてある喫茶店で時間を潰した。
翌日は祝日なので、一度昼過ぎまで寝た後、次週に向けて招待状を作る。
「あー困ったなー招待状をいっぱいもらっちまったぜ!」
クラス内ではだいぶメッキが剥がれて正体がバレつつあるが、それでも他のクラスや上級生の女子からお誘いがたくさんきたらしい。男子寮の前でレオナード皇子やロニ、オポトの誰かを呼んで欲しいと同じクラスの男子に頼んだらなぜかキャムが招待状をたくさんもって門のところへ出てきた。
「どこかの下位貴族の娘の招待なんて受けるヤツはいるのかなー?」
嫌味を言うためにわざわざ寮から出てきたのかしら? ぶち●●ますわよ?
「まったくしょうがねーなー俺が……」
「シリカ待たせたね」
「あ、レオナード皇子」
キャムはレオナード皇子の姿をみて「ちッ」と舌打ちをして、男子寮の中へ戻っていった。何しに来たんだアイツ?