私の二度目の人生は幸せです

36 シスコンすぎる弟



「姉さん、その人たちは?」

 あ、もう一人帰ってきちゃった。

「茶会よ、皆さん私の弟のケイです」

 私が弟を紹介するが、皇子たちの方を見ずに私を凝視している。

「姉さん……」
「ん……どうしたの?」
「この中に姉さんの好きなひとがいるの?」

 おいぃぃーーーッ、なにを言ってるんだ君はぁぁぁ?

「生半可な男なんかに姉さんはやれんっ」
「君はお姉さんを守れるの?」
「もちろん、ボクは姉さんを世界でいちばん好きなんだ。ボクを納得させたいなら王族くらい連れてくるといい」
「一応王族だけど?」
「へ?」

 レオナード皇子が質問して、弟のケイが勢いよく答えるが、目の前で話しているひとがレオナード皇子だと分かった途端……。

「ひゅぅぅ!」
「ケイっ!?」

 先ほど聞いた変な悲鳴をあげて父のようにその場で失神してしまった。

 ✜

「先ほどは失礼しました皇子」
「いえランバート卿、お気になさらずに」

 弟を奥へ連れて行くと入れ替わるように父親が復活してやってきた。

「こんなところでお会いできるとは思っていなかったのですが内密にお伝えしたいことが」

 周囲に聞かれてはマズイ話を父が皇子に? しかし、レオナード皇子は首を横に振る。

「今ここにいるものは全員、私の信頼できる友人です。どうかそのままお話を」
「そうですか……それでは」

 父は王立魔法図書館の司書をやりつつ、魔法省にも勤めているのは知っていたが、情報局で働いていることを初めて聞いた。

「米と小麦、塩の値段が?」
「ええ、あと僅かですが、人件費も上がっています」

 父の話ではエブラハイム国内でそういったものが値上がりするのは、単体なら特に問題ないがセットで上がる場合はきな臭い動きがあると進言した。

「鋭いですね、さすがシリカの父親です」

 皇子も把握しているそうだ。レオナード皇子の話ではベルルクの街を中心に人や物が集まっていて、東に隣接している国のひとつ、無秩序の国マガツワタとの馬車の往来が頻繁にあるそうだ。

「それではやはり?」
「ええ、テイラー家の当主がなにか企てようとしているとみて間違いないでしょう」

 そんな……ならここにいるサラサはどうなるの? 彼女は両親は早くに亡くしているが、10歳年上の姉が彼女を親の代わりに育ててあげたはずだ。

 おかしい。ゲームの世界ではこんなイベントは発生しなかった。ゲームでは私たちが2年生に入ってからドォルドー国との戦争が始まるがまだ半年以上も先の話だ。

 やはりキャムが英雄と称えられるようになったからおかしくなったのだろうか? こんなことになるなら私のもうひとりの師匠、賢者バロアもキャムの偽りの功績を認めなかったはずなのに……。

 他にも父は第4階位貴族(エッジウォッズ)の中でも有力な貴族ハイデン家やルーズベルト家を傘下に加えた話や息子キャムの強化手術を成功させたという黒い噂を皇子へ報告した。

 ハイデン家とルーズベルト家っていえばミラノとウェイクの家だ。だからあのふたりってキャムとつるんでるんだ……。

 それより息子に強化手術を施すなんてどうかしてる……。

 魔力強化手術というのは、カラダの神経に強制的に魔力を流し込み、魔力の出力を強制的に上げつつ色見石(カラーストーン)を胸に埋め込み魔力総量を飛躍的に増大させる外道の業として知られていて、このエブラハイム魔法王国内では禁忌の術として知られている。

 そうか、だからキャムって魔力総量はすごく多いのに細かいコントロールができないのか……暴れる魔力に振り回されている感じがしていたのはこういう理由があったのか。

 どうする? なぜサラサがテイラー家につなぎ留められているのか分かった気がする。もし内乱でも企てていようものなら光の聖女がテイラー家の陣営にいるだけで正統性を主張できてしまう。その前に王国がサラサを保護する動きがあるかもしれない。

 でもサラサの姉がベルルクの街にいては人質を取られてるようなもの。動きが目に見えてあるまでになんとかできないものか。


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