私の二度目の人生は幸せです

37 王都炎上



 私たち3人は無事レーゼの花をゲットした。これで私の夕飯に彩りが増す。うふふふふ。

 サラサとサラサの姉、ちいさい頃に会ったテレハ・ボールドマンのふたりをレオナード皇子が身柄を保護できるか。それはたぶん厳しい。

 もしクーデターを起こす気なら光の聖女はお金で解決できる問題ではない。そんな話をキャムの父親に話したら警戒を強めてしまいキャムやサラサにベルルクの街へ引き上げるよう命令するかもしれない。やるなら時間をかけずに一気に計画を実行する必要がある。

 動くなら夏休みに入る前、時間はもう残されていないと考えた方がいい。

 そんな私の考えをあざ笑うかのような事態が起きた。

 翌日、まだ日も昇っていない明け方、王都デルタに緊急警報の鐘が鳴り響いた。
 ベルルク地方の領主、テイラー卿が軍を率いて王都デルタへの進軍を開始したと魔法ラジオ放送が流れた。

 キャムやサラサがまだ王都にいるのに何を考えているのか?

 途中にある2つの街と5つある村をそれぞれ1日と掛からずに陥落させ、阻むものがないところでエブラハイム王国軍とテイラー軍が対峙した。

 本当なら王国軍の方が数が圧倒的に多いが、エブラハイム側は互角かそれ以下ぐらいの数しか動員されていない。

 その原因としては、エブラハイム王国の東側に隣接する3つの国のうちの2つ。剣と鎚の国ドォルドーと反法治国家マガツワタの2国が同時にエブラハイム王国を侵略し始めたため。

 乙女ゲーでは戦争イベントは2年になってドォルドー国のみが相手だった。ゲームのなかでは魔法大国にして大陸一の領土と人口を誇るエブラハイムにとってそれほど厳しい相手ではなかった。

 それにしても不思議なのは錦の御旗であるはずの英雄キャムと光の聖女サラサがともにまだ王都デルタにいるのにテイラー軍が真っすぐ向かってきているのが考えが読めず不気味である。

 私たちパルミッツ学院の中等部と高等部の生徒はそれぞれ学院で待機し、初等部の子達や老人傷病者などは南東にある亜人の国プーアンへ疎開を始めた。

 3か所同時に開戦が始まったとの報が入って5日後、3か所とも拮抗していた戦況が突然、バランスを崩した。

 テイラー軍と対峙していた国軍の一角、ルーズベルト将軍が率いる森梟(しんきょう)魔法騎士団が突然謀反を起こし、真横から他の騎士団を襲い、単独ではまず立ち直れないほどの深いダメージを受けた。

 同じように反法治国家マガツワタと対峙していた国軍はハイデン情報戦略部隊長の裏切りにより偽情報に踊らされ、壊滅的な打撃を(こうむ)った。

 しかし、ドォルドー国だけは正面から押し切られた。ヴィヴィルツ・カーマイン将軍が率いるドォルドー軍は屈強な戦士が多く、物理的な戦闘スタイルのみで魔法王国エブラハイムを圧倒した。

 その理由としてはそのあまりにも桁違いの威力でエブラハイム王国内で使用を禁止し他国へもいっさい輸出禁止していた〝マントラ〟──筒状の先の油を含ませた縄に火をつけて対象物に投げ入れると上位魔法に匹敵するほどの高火力の爆発を起こす。そのマントラがキャム暗殺騒動の陰でオポトとは別の人間が王都内へ数人潜り込み大量に奪われた事件があったと最近になって明るみになった。

 ドォルドーは他のテイラー軍やマガツワタと違って共同で戦線を張っている訳ではなく、戦争のニオイを嗅ぎつけて混乱に乗じて肥沃な大地を持つエブラハイムの国土を奪おうとしている。

 国軍が壊滅的打撃を受け、国王ジュール・デマンティウス13世率いる直轄軍は孤立し奮戦したものの3方向から叩かれ、王都デルタの近郊で国王が討たれ崩壊した。

 そして獣のような3つの軍が水の都と謳われた王都デルタを蹂躙を始め、その火の手が国立パルミッツ高等学院へ及んだ。

「へへっ遅かったじゃねーか親父」
「光の聖女はどこだ?」
「奪われちまった」

 キャムは苦々しい顔をしながらパルミッツ学院の旗を足裏で踏みにじって立っている父親へ吐き捨てるように呟いた。

「親父……シリカ・ランバートに気をつけろ」



 ──王国歴316年、魔法を極め、栄華を誇った魔法王国はその日、長い歴史に幕を下ろした……。


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