私の二度目の人生は幸せです
38 最後の王
──王都デルタがその身を夜空へ紅く染め上げる約1日前。
敵勢力がそれぞれ王国軍を破り、王都デルタへ戦靴を届けるのも時間の問題となった。パルミッツ魔法高等学院の中等部と高等部の生徒は予備兵として待機を命令されていたが、ここにきてようやく避難指示を受けた。
同時に国王ジュール・デマンティウス13世がレオナード皇子を呼び密かに王命をくだした。それはいいのだがなぜか私も一緒に王様に呼ばれたのが、不思議だった。
「よいか、シリカ・ランバートよ、必ずレオナードを亡命させるのじゃ」
国王は王都を防衛して潔く散るつもりだ。そのうえで時間稼ぎをするから皇子を安全な場所へ逃がすようにとの仰せだ。
レオナードさえ生き残れば、いつか魔法王国再興の夢も途絶えない。それはわかるのだが……。
なぜそんな大事な任務を私に託すの? 将軍とか近衛の魔法騎士とか他にもっと適任者がいるはずなのに。
「そなたが5歳の頃から知っておった」
なんとまあ……バロア師匠、国王とも知り合いだったとは。非凡な少女が下級階位貴族のなかで生を受けて、いつかこの国になくてはならない人材になるだろうと予言を残したそうな。
本当はバロア師匠を私とサラサが手伝って幻獣種ニオギ・ヒュドラを討伐したことや私が実力を隠してひたすら勉学と鍛錬に時間を費やしていたのもご存知だった。
「あえて言おう、そなたは恐らくこの魔法国エブラハイムでもっとも偉大な魔法使いじゃ」
国王にはバレているのかな? 私が常に放出している〝透明な魔力〟がもう何年も前にバロア・デニエールや賢者アールグレイの魔力総量を超えたことを……。
幼少の頃から魔力に目覚め、鍛錬した方が魔力の総量はより増加する、と一般的に言われている。私の場合は赤子からスタートし、4、5歳から魔力を伸ばすための英才教育を受けた。このカラダほど魔力と深いつながりのあるものはまずいないだろう。
でも他のひとを逃がすならまだしも滅亡確定のエブラハイム王国から皇子を亡命させるとなると、敵方は間違いなく血眼になってレオナード皇子の行方を追うだろう。いったいどこへ逃がせばいいのか皆目見当もつかない。
(それなら良い手があります)
頭のなかで、賢者アールグレイの声が聞こえた。──ふむふむ、それなら安全かもしれない。
「わかりましたお任せください陛下」
これから王国の歴史を背負って死地へ向かう国王の命令を私は覚悟をもって受けることにした。
✜
「サラサ、一緒に行こう?」
「ありがとうシリカ。でも……」
サラサは悲しい表情を私に見せまいと顔を伏せるが、プラチナブロンドの髪を縫って彼女の涙が垣間見えた。
姉を人質に取られている。そのために彼女は私についていけないと話す。
「え……」
「シリカ大好き」
いきなり抱きつかれた。こんな絶世の美女に抱きつかれたら同性でもドキドキするんだが?
え……ちょっストップ。
サラサの顔が私に近づいてきたので、さすがに止めた。気が動転しているらしい。彼女の両肩に込めたチカラは彼女の動きを止めると同時に心も落ち着かせたようだ。
「ごめんなさい」
「……ううん、いいよ」
ふと気づいたが、近くにいるエマの顔が真っ赤になっている。彼女は私と一緒に行くと決めたメンバーのひとり。どうした? なぜそんなに照れている?
「待たせたね。それじゃ行こうか」
朝方、まだ寝静まった男子寮の裏手、レオナード皇子、ロニ、オポトの3人が物音を立てないよう気を配りながら合流した。
「おっと、どこに行くつもりだ?」
おっと、いちばん見つかっちゃいけない相手に見つかった。
キャム・テイラー……今やベルルクの領主、テイラー軍大将の息子にして反逆の旗印。彼に付き従っているのはミラノ・ハイデンとウェイク・ルーズベルト。まずいな、もし戦闘になったら、この3人を相手に音を立てることなくこの場を切り抜けるのは不可能になる。