私の二度目の人生は幸せです
51 名もなき村
最初に襲われたあとは魔物が一匹も出て来なくなった。私に恐れをなしたのかしら、オホホホホッ。
村のあった方角へ向かって歩いていたら足を引っかけてしまった。「カラカラカラッ」と音が辺りに響き渡る。気にはなったが、なにも起きないので気をとり直してしばらく前へ進んでいると、女の子がひとり私の進んでいる先の方で立っていた。
「岩人には見えないが何者だ?」
どこからやってきた? と立て続けに聞かれたので地上から来た魔法使いだと答えた。
少女は手を挙げ、指を鳴らす。するとガサッと葉擦れとともに梢が揺らぎ、周囲のいたるところから弓矢を構えている人たちが現れた。アッブな……逆らってたら一斉に矢を射かけられてたかも……。
「村まで来てもらおうか?」
イヤだと言っても無理やり連行されそうなので、素直に従った。
さて、村に連れてこられた私の目に最初に飛び込んできたのは、丸太で組まれた塁壁に外堀には水が張られている異様な光景。この村が常になにかの危険にさらされているのだろうと予想できる。
門をくぐり、村の中央にある360度周囲を見渡せる物見台と思しき高い建物以外は平屋づくりで、そのほとんどが木造だった。
物見台の隣に壁のない他より大きな建物があり、その一角に木でできた牢屋があって、そこに投獄された。
ちなみに賢者アールグレイの入った背嚢は誰もいない隣の牢獄に入れられた。私から見える場所にあるので、盗難の心配はないので一安心といったところ。
木で出来た檻ね……丸腰だし、か弱い美少女だから木の檻に入れられたのかしら、ウフフフ。
もしかしたらサラサや他のひと達もこの村に寄っているかもと期待したが、誰も来ている様子はない。私が騒ぎを起こして逃げ出した場合、入れ違いで他のひとがなにも知らずにやってきたら危険が及ぶやもしれない。うーんどうしたらいいのか悩む。
1時間くらいして、やっぱり爆破でもして脱獄しようかな、と良からぬことを企み始めた頃に木で出来た檻が開いた。
「出ろ!」
最初に出会った12、3歳くらいの女の子が牢獄のカギを開けてくれた。
「この村は何ていう名前?」
「村に名前なんてない。おかしなことを聞く」
いやいや普通、村に名前あるって。ここがどこなのか訊ねても「ここはここだ」と身も蓋もない答えが返ってきた。
どうやら私の身元はよくわからないが敵対している岩人族とは関係ないという判断を村のひと達は下したらしく、晴れて解放されたそうだ。
「今は厳しい状況だ。貴重な食料だから大事に食べるといい」
硬いパンと山羊のミルクに口をつける。正直、私の亜空間魔法〝魔女の大鍋〟に美味しい食べ物がたくさん入っているのだが、彼女の……そして村の好意を無下に断るのは、私の美学に反する。なので、ありがたく頂戴した。
「ところでなんで今厳しい状況なの?」
村全体に流れている張り詰めた空気の正体がなんなのか、厳重な村の周囲の守りといい、ただ事ではないだろう。
「お前、本当になにも知らないんだな」
この世界……私たち地上から来た人間からすると地底世界というべき場所には人間以外に様々な種族が住んでいるそうだ。
岩人、炎人、木人、水人……他にもいろいろといるらしくその多くの種族が他種族に対して好戦的に接するのが常識らしい。この村は岩人と呼ばれる種族の縄張りに近く、昔から争いが絶えないそうだ。
人間は各地に点々とある村で細々と生活しており、他の種族より非力で特殊な能力も持ってないため、怯えて暮らすのが当たり前な世界だそう。
幸い人間は他の種族に比べ、数だけは多いので滅びることはないが、それでも延々と搾取される側から脱却したことがない、と彼女の話を聞いていてそのように分析をした。