私の二度目の人生は幸せです
54 俺一人のものでは
「シリカ……」
夜中にロニが目を覚ました。私は彼の手を握ったまま椅子からズレ落ちて寝てしまってたらしい。彼の柔らかい視線が私の顔に注がれている。
「あ、ごめんね、手を繋いで寝ちゃってたみたい……ってちょっと」
「……ずっと放したくない」
ちょちょっ、なにを言ってるの/// 恥ずかしくて顔が熱くなっていくのを感じる。
「ごめん、君は俺ひとりのものではない」
「それってどういう……」
「失礼!」
どういう意味? と聞きたかったが、ロニが目を覚ましたのに気が付いた隣の部屋で休んでいたシェルや彼女のお手伝いの女性が部屋のなかへ入ってきた。私はあわてて握りしめられている自分の手をロニから引っこ抜いた。
「質問していいか?」
「ああ」
シェルはロニがなぜあの場にいたのかと尋ねる。ロニは99階層から飛ばされたあと、すぐに森のなかでエマと合流できたらしい。だが、水でできた人型の化け物に襲撃されて逃げている途中でエマとはぐれ、岩山にトンネルがあったのでそこで水の化け物をやり過したら、今度は岩の化け物に襲われたそうだった。
今の話を聞いて思ったのは岩人たちの弱点は水……なので水でできた化け物は天敵のようなものなんだろう。脅威が去った後にロニを襲ったと整理するとうまく話がかみ合う。
まずいな、ロニの話だとエマと別れて1日は経っている。私はひとりでエマを探しに行こうと椅子から立ち上がるとロニが自分もついていくと申し出たが断る。急いでいるので足手まといだとはっきり伝えた。
それから1時間くらいかけて、先ほどの岩山のトンネルの近くまできた。魔力の消費を抑えるため空を飛ばずに脚力だけ強化して走って移動してきたので、魔力にはまだまだ余裕がある。ロニの話だと岩山のトンネルを反対側に抜けた先に長い下り坂があって、そこでエマとはぐれたそうだ。
その場所に行っても手がかりが何もない。ロニの証言からエマが走り去った方向……下り坂を真っ直ぐ向かうと大きな湖が姿を現した。
どどどどういう状況!?
湖の真ん中のちいさな島に1本だけあるヤシみたいな木の上にエマがしがみつき、わんわんと泣いている。下には水人と思われる種族が大量に小さな島や水岸に立ったり、湖面から顔だけ出したりして全員、エマを見上げている。
前世でみたことのあるヤシの木の葉っぱは突然、根もとからバッサリ落ちてしまうことがある。エマがお尻を乗っけている葉っぱはまさに落ちようとしているようにみえる。
「エマ、今ってどんな状況?」
「ししし、シリカひゃん」
飛行魔法で小さな島に一気に渡って木の上に立ってエマへ声をかける。
森のなかで、水の化け物に襲われ、ロニとはぐれこの湖の真ん中へ逃げてきたそうだ。ここまではロニが話していた内容と一緒。
その後、彼女は以前、賢者アールグレイの私品を取りに湖底神殿へ行った時にアールグレイからもらったサッシュという魔法の靴で、水面を走って渡れたが水の化け物もまた水との親和性が高く追い掛けてきたそうだ。そこでエマはやむなく小さなこの島に生えていた苗木を植物魔法で化け物たちの手が届かないくらいに大きくして今に至るという悲しい話を聞いた。
水の化け物……水人相手に追いかけられて湖へ逃げるって普通考えないよな……エマってたまにドジっ子少女を演じてくれる。
「そ、じゃ降りようか?」
「ふぇ?」
遠隔魔法でエマを拘束し、一緒にヤシみたいな木から降りる。小さな島に群がっている水人はここぞとばかりに私たちへ襲い掛かってきた。
「シリカしゃぁぁぁぁん!?」
「爆ぜろッ!」
岩人にとって水人が天敵であるのならば、水人にとって私という水魔法が得意な使い手は、彼らにとってまさに天敵である。
私たちの半径5メートル以内に侵入した水人は残らずカラダが膨張して爆発する。水面歩行の魔法を自分にかけてふたりでゆっくり湖を岸へと歩いていく。水人は割れるように私たちに道をあけてくれた。
うん、わかればよろしい。