私の二度目の人生は幸せです
55 憧れの女性(ひと)
「オポト無事だったんだね」
「はい、皇子、木人が助けてくれました」
地底世界へきて約3か月が経とうとしている。
ボクは100階層の地底世界へ飛ばされたあと、地底人のいる村のすぐそばに落ちたのでそれほど苦労はしなかった。だが一緒に行動をともにしているミラノやウェイクはこの村に着くまでにかなり大変だったと本人たちから聞いた。
今日になって、木人に案内されてオポトがこの村へやってきた。
木人はこの地底の世界の他の種族と比べると温和な部類に入る。人間に敵対的な態度を取らないため、この村の住人も木人には気を許している。
オポトはこの村の近くにある木人の群れとはまた違う群れのところで保護されたそう。いくつかの木人の群れを渡り歩いてこの村までやって来れたそうだ。
今、ボク達が滞在しているこの村は1万人近くおり、規模がかなり大きい。近くにもここより規模は小さいながら3つ村があって、4つの村が支え合って成り立っている。
この地底世界の住人は魔法が使えず、魔力という概念すら知らない。文明のレベルもそこまで高くなく医療体制もほぼ民間呪術や薬草に頼っていて、あまり期待はできない。
2ヵ月前までこの村から半日ほど離れたところに炎人という好戦的な種族がいたが、ボク達魔法を使える3人を中心に戦闘を仕掛けてなんとか炎人を倒すことはできた。だがその争いの中で多くのひとが命を落とし、ウェイクもひどい火傷を負った。一時期死線をさまよったが、なんとか持ちこたえて今はどうにか歩けるくらいには回復している。
炎人がいなくなって村のひと達は喜んでいたが、今度は別の種族が1ヵ月前あたりから村へちょっかいを出してくるようになった。森に程ちかい家畜小屋が襲われたり、柵を壊されたりといった被害が出ているらしい。
魔人と呼ばれる連中で、どうやらボク達と同じく魔法らしきものを使ってくるそうだ。幸い確認できている数はそこまで多くないので、まだ大きな被害は出ていないが、炎人同様に早めに対策を立てなければならない。
3日後、魔人との間で大きな争いが起きた。まだそこまで動けないウェイクを残し、ボクとミラノ、オポトの3人で村人たちの応援にひとつ山を越えた先にある火の手の上がった別の村へ向かった。
くそっ武器まで使ってくるのか……。2か月前まで争っていた炎人は元よりこの地底世界の人間以外の種族は武器を使わないと聞いていたのだが。目の前で振りかざした魔族の剣を磁気盾で弾き、銃光剣の先についている銃口を向けて、魔人の頭を吹き飛ばした。
チカラも強く、初歩的なものだが魔法まで使ってくる。おまけに武器を持っているので、数が多いだけの村人たちはボクら3人の善戦むなしくどんどん倒れていく。
「ボクらに任せて退却するんだっ!?」
このままでは全滅してしまう。村人を逃すために3人で殿を受け持つと村人達へ大声で伝えた。
すると。
トトトトッ、と大量の矢が降り注ぎ、目の前に迫った魔人たちが次々に倒れた。
「素晴しい指導者になれるね、皇子」
その声は……。
建物の上に見間違えるはずがないボクの憧れの女性が立っていた。
「だけど自分を犠牲にしようとすのは良くないな~。味方も自分も助かる方法を最後の最後まで考えないと」
「オオォ」と鬨の声が上がると、彼女が立っている建物の両脇から完全武装した民兵たちが怯んだ魔人たちに突撃していき、次々に打倒していく。
魔人のひとりが苦し紛れに放った火球を指でピンっと弾きながら、3か月前に離れ離れになったシリカ・ランバートが魔人たちに宣告する。
「サラサをどこへやったの? 答えなさい。答えたら楽に滅してあげる」
鋼でできた鎧に盾を装備した一団のなかにエマやロニも加わっていて、積極的に魔人を狩っている。魔人たちの武器が鋳造技術で造られた青銅製であるのに対し、完全武装の一団が使っている武器は鍛造された鋼の剣や長い槍。弓兵が後方から援護射撃を行い、長槍を持った兵が魔人の先頭集団を貫き、その脇を抜刀した剣兵が魔人へ肉薄して圧倒する。魔法が使えず身体的に劣っていても、武具性能が高く、戦術を操る人間の方が強かった。
おまけに屋根の上から相変わらずの限界を知らないシリカの魔法が奥にいる魔人たちを魔法で片づけているので、1時間もしないうちに決着がついた。
「光を纏う女は我ら魔王の貢物として捧げた」
「ふざけんな、このこのこの!」
魔人の将らしき人物を捕獲して、尋問するとニヤリと笑みを浮かべシリカを挑発したので、怒ったシリカは手刀のカタチを作って魔人の将にビシビシと地味な攻撃を仕掛けている。