私の二度目の人生は幸せです
56 戦の知恵
「さて、この一帯を人間が治める国を作ろうと思ってるけど協力する?」
私の提案に4つの村の代表者は間髪入れずに承諾した。先ほど村をあっさり救った私たちの手腕を高く評価してくれたようだ。一緒に戦うことが決まったので、さっそく武器や防具を支給していく。
この3ヵ月近くでシェルのいた村と他2つの村あわせて3つの村からなる戦士団を組織した。今回この4つの村が参加することになったので実に2万人近い規模の人たちが私の作戦に加わることになった。
約3か月前、水人からエマを救った私はシェルの村から近いところに住んでいる馬人というケンタウロスに似た種族がタイミングを見計らったかのように襲撃してきたので岩人同様、殲滅させた。
最初は頑なに私たち地上からきた者の介入を拒んでいたが、馬人戦でみせた魔法の数々に驚き、信頼を寄せてくれるようになった。
襲撃ばっかりされて受け身なのはどうだろう? とシェルたちへ逆に襲撃してやろうと提案すると私が率いてくれるなら、という条件で近くにある村まで足を伸ばした。
隣の村、そのまた隣の村と人間が活動しやすいよう版図を拡げていたところ、魔人と呼ばれる人間に近い習性の種族と遭遇した。数が少なかったのですぐに倒せたが、近くの村人の証言でサラサによく似た女性が魔人にさらわれたという話を聞いて、探し回っていたところ皇子たちのいた村の近くにいる魔人の群れを見つけて討伐したが、外れだった。
代わりにサラサ以外の散り散りになっていたメンバーが全員揃ったので、目的がよりシンプルになった。
魔王への貢物? ふざけんなよ、サラサは私の大切な親友でかけがえのない大事な……ゴホンッ。まあとにかくこの大きな村と近隣の村の人たちに武装させて、自衛するための最低限の知識と簡単な戦術を教え、残りは私が率いる戦士団に合流してもらった。
ちいさい頃、まだ賢者バロアに師事していた時にバロアから魔法の教育以外に戦略、戦術を叩き込まれていた。あの頃はこんなもん何の役に立つんだろうと謎だったが、今ではすごく役に立っている。バロアっていったい私が将来どういう風に成長すると思ってあんなものを教えていたんだろうか?
サラサの居所をなかなか吐かない魔人の将に腹を立てオポトに任せた。彼はドォルドー国のヤベー奴……ヴィヴィルツ・カーマイン将軍直伝の自白洗脳術を使い、本拠地を特定できた。この場所から1週間ほど南へ移動したところにある丘の上にそびえ立つ魔王城……ゾディックで城下町の住人を合わせて1万人はいるそうだ。
その内、従軍できるのは約3分の1くらいなのでこちらの再編成した戦士団5千人に比べれば数が少し足りないぐらいだが、相手は魔法が使えて、身体能力も人間と比べてはるかに高い。武器も使ってくるので、こちらが倍以上の数を揃えて、かつ、鋼のチカラを借りてもまだ怖い。
魔王は、私たちがこの地底世界へやってきたのと同時に渾沌とした秩序のなかった魔人社会に現れて数日で統率したそうなので、そのチカラは計り知れない。そのうえこの地底世界に住むすべての人間にとって迷惑な話で魔人以外の種族……人間も含めてすべて滅ぼそうと準備をしているそうだ。
正面からぶつかったら勝てるかどうかも怪しく勝てたとしても、大量の死傷者が出てしまう。なのでここはバロア師匠から教えてもらった戦術を駆使することにした。
城というくらいなので、城攻めが必須になる。本来なら兵站を整え、長期戦を十分に考慮して望まないと逆に負けてしまうなんてことも歴史書を紐解くと失敗例がたくさん載っている。だが、私はあえて短期戦に臨むため、速やかに進軍させた。
本来ならレオナード皇子に大将になってもらった方がいいのだが、皇子がそれを辞退し、地底の民たちからも私が総指揮を執って欲しいと強い要望もあるので、引き続き私が作戦立案から現場の指揮まで行っている。
斥候を多めに出して先の方の地形や魔人の動向を地図の空白部を埋めながら駒を作る。情報をかき集めた結果、いくつかの作戦を思いついた。師匠のバロアからひとつの作戦だけでけっして戦いに望んではならないという教えを受けた私は複数の作戦を連動、補完させるカタチで魔人たちを嵌めようと作戦遂行のために準備を進めた。