私の二度目の人生は幸せです
60 魔王の正体
ばっちりなタイミングで遠くで火の手が上がる。
「こんなところで油を売ってていいの?」
「ひとり潜ったところでなにができるのさ」
「これでも?」
深い霧のなかで私の背後にいた人間がすべて白い煙となって霧散していく。
「私は囮ってわけ」
深い霧が立ち込めているのは私の魔法によるもの。背後に魔法で作った人間そっくりのダミーを立たせ、本隊は霧に紛れて裏門へと向かった。魔人の伝令役を捕らえて伝令に関する情報を自白洗脳術で引き出し、その伝令に変身したオポトは1日前にすでに魔王城の城下町に潜伏して、裏門の開門を手引きした。
今ごろ城下内に味方の軍が雪崩れこんでいる。無益な殺生は避けるようお願いしたが、混乱させるためにあちこちに火をつけるよう指示を出しておいた。
「アンタ達、先に行って住民の避難誘導と消火に行ってきな」
魔人の4騎士ナルミは正門を守っていた兵達にそう指示した後、城壁から飛び降りてきた。
「アンタが大将なんだろ? アンタを叩けば決着がつくじゃないか」
「ご名答、でも私は囮は囮でもスペシャルでスーパーかつ美少女的な囮なの」
「何を言ってるのか分からないね」
「これを見れば納得するはず……んく、んく」
ポケットから取り出したのは特殊な簡易転移瓶、それを少し口に含む。あとはこの瓶を割れば事前に同調させておいた転移石の場所へ転移できる仕組み。
「それではさらば、ドロン」
ドロン、と口で言って瓶を割った。──だって1回言ってみたかったから。
目の前に城の門が見えた。
一瞬で転移してきたのですばやく状況を確認すると予定通り城下町は火の手があちこちに上がっていて、誰も私たちのことを見向きもしようとせず、一心不乱に逃げ惑っていて、多少の同情をしてしまう。
「じゃあチャチャッとサラサを助けて魔王をぶっ飛ばしてきますか」
「オオ――ッ」
私の言葉にシェルたち地底の住人が喊声で応える。
城の扉を壊そうかと思ったらカギはかかっておらず城内に流れ込む。城といっても中世ヨーロッパのようなお洒落なデザインではなく外観は無骨な四角い箱型だった。城の中も外観からみた通りの四角い大空間。窓はなく晶石と呼ばれる前世でいうランプの役割をするものが天井に埋め込まれていて、まぶしいくらいに白い壁と白い床を照らしている。
前方には恐らく最後の守備隊とみられる3百人程度の兵士たちが待ち構えていたので、シェルたち地底の民に任せて守備隊が守っている背後にある地下階段を目指す。
もうここまで来れば魔王の方は私たちだけで決着をつけた方がいい。
私が投げた簡易転移石は守備隊の頭上を超えて地下階段の中に落ちていった。石が階段に触れたと同時に私にしがみついていたレオナード皇子、ロニ、エマ、オポト、ミラノ、ウェイクが一緒に地下階段の途中へ転移した。
後ろを振り返らずに階段を全力で駆け降りる。途中から直線だった階段がグルグルとした螺旋階段に変わり、数百段ほど降りた先にあった扉を開くと左右に溶岩湖が広がる大空間に出た。
中央に円形の広場があり、その先に桟橋が続いていて桟橋の切れた先に天井から吊り下がった巨大な鳥かごに閉じ込められているサラサを見つけた。
「サラサ!」
「……シリ、カ?」
横になっていたサラサが私を見つけて、起き上がり不思議な金属でできた檻を掴む。
「待ってて、今助けてあげる」
私がサラサに向かおうとすると、円形の広場の中心に影が浮き出て、中からひとが浮き上がってきた。
「お待ちしておりましたシリカ・ランバート様」
「……あなたが魔王?」
仮面を被った黒ずくめの男、マントを身に纏っていてどんな服を着ているのかわからない。
「ええ、魔王役をしていたものです」
聞いたことのある声……たしかダンジョンの1階層と99階層で私たちを音声案内した時の?
「適正者試験の合格おめでとうございます」
適正者試験の内容は明かされていなかったが、地底の民を救い、導いて魔王城最深部に到達するのが合格基準だったそう。サラサを誘拐したのも私がここへ向かうよう仕向けるため。
「いったい何者なの?」
「〝管理者〟の従者です。あなたが渡界人であり、東雲詩乃殿の生まれ変わりだと知っているくらいには世界に関わっております」
「──ッ!?」