私の二度目の人生は幸せです
62 国家情勢
イヤイヤ……威力がエグすぎません? 私って今、魔力量ってどうなっているのいったい……。
前の方で戦っていたレオナード皇子が固まっている。本当に申し訳ない。事故なんです。と後であやまろう。
それより私が吹き飛ばした瓦礫のあった場所に階段があった。地下に繋がっていて浸水はまだ起きてないみたい。
「気づかれたみたい」
オポトが瓦礫の山に登って遠くの方を確認して教えてくれた。複数の場所から同時にパルミッツ学院に向かって光が移動し始めたそうだ。
(シリカ、下に降りなさい)
「でもこのままじゃ見つかっちゃう」
(大丈夫です。下から鉄でできた乗り物の気配を感じます)
鉄魔法の使い手である師匠がそう言うなら間違いないだろう。私は皆に小さな声で呼びかけてサラサに肩を貸しながら階段を降りはじめた。
階段の下には人がひとり降りられるくらいの丸い穴が開いており、その下はハシゴで繋がっていたのでサラサを遠隔魔法で持ち上げ、私自身は浮遊魔法で底まで降りた。
高さは5メートルくらいで直径2メートルくらいの狭い空間、火魔法で明かりを灯すと扉などもない閉鎖された空間で行き場がどこにもない。
「なんだこの階段は?」
上の方で声が聞こえた。階段が見つかった……これって袋の鼠じゃん。
『ガチャン』
「うぇ?」
全員が丸い円柱の底に降りたと同時に階段に繋がっていた穴が蓋を閉じるように閉まった。
師匠……これって本当に大丈夫なんですか?
──なんて師匠を疑ってごめんなさい。一瞬カラダが浮き上がったあと、円柱が倒れるように向きを変えたので、重力通りに円柱の横壁に足をつけた私たちに凄い力が加わり、天井の方へビタンっと張り付いた。
たぶん横方向にもの凄い速さで移動している。
数分後、徐々に減速していくと先程と逆の行程で円柱が再び縦になり、上の蓋が開いた。
見上げると少しだけ夜空が見える。どこか別の場所に着いたのだろうか?
「特に気配はありません」
オポトがすばやくハシゴを登り、周囲を確認してくれた。
私たちもあとに続き、外へ出ると古い枯れ井戸の底に繋がっていた。
井戸自体はとても浅く少しジャンプすれば、か弱い私でも井戸の縁へ簡単に手が届いた。
「プーアンとの国境に近い場所だな」
ロニが周囲の地形を見て現在地を特定してくれた。
亜人の国プーアンは魔法王国エブラハイムと親交が深く疎開先に指定されているので、プーアンへ行けば避難したエブラハイムの民に会えるはず。
ここからは人目を気にすることなく、飛行魔法でプーアンの首都エンコまでノンストップで飛び続けた。ちなみにまだ自分で歩くのもままならないサラサは私が身体強化魔法をかけて彼女を背負ってふたり分の体重のまま移動する。他のメンバーも地底世界へ行く前より魔力が段違いに跳ね上がっているので誰も魔力切れせずに1時間くらいかけて目的地へ辿り着いた。
私はプーアンの国へ訪れるのは今回が初めて。でも教科書や図書館の本で読んで知っているつもりでいた。岩と森の木が入り混じった緑あふれる素敵な国……そのはずが。
プーアンの首都エンコのすぐ北側で森が焼け落ち、灰が地面を覆い、あちこちで煙が燻っている。
プーアンの北には剣と鎚の国ドォルドーがある。首都のすぐそばまで侵略されているということはかなり旗色が悪いとみて間違いない。
「殿下、よくぞご無事で」
「ゴットフリート卿や他の皆も生き残ってくれていてありがとう」
マルク・ゴットフリート卿──第3階位貴族でロニの父親であり宰相を務めている。ゴットフリート家は代々、王家にもっとも信頼されている家柄で、歴代の宰相はほとんどゴットフリート家から輩出している。
4か月前、王の剣として勇ましく果てようと敵陣へ突撃するべく準備をしていたゴットフリート卿だが、レオナード皇子の父親、国王ジュール・デマンティウス13世より、まだ若いレオナード皇子を支えるために生き延びよと王命が下された。王の命令に従い、僅かな手勢を連れてプーアン国まで落ちのびたそうだ。
エブラハイム王国軍のそのほとんどが王と道をともにしたか離反したため、プーアン国に逃げ延びて再編できた軍はわずか2,000人足らず。
エブラハイム王国の領土は現在、キャムの父親が国王を僭称し、同盟を結んでいた反法治国家マガツワタとエブラハイムの割譲した領土をめぐり争いを始めた。そこにドォルドー国が参戦し、三つ巴の様相を呈しているそう。ドォルドー国はさらにプーアン国をも取り込もうと侵略を始め、もっとも国土を拡げようと画策しているそうだ。