私の二度目の人生は幸せです

9 ブリキ人形



「ふむ、女子(おなご)の方は見込みがあるようじゃが……」
「……そう言わないでください。ボクも精一杯頑張りますから!」

 バロアの視線がサラサに向いた時にキャムの顔が一瞬、豹変したのを私は見逃さかった。すぐに笑顔を作ってバロアに取り入ろうとしているが、バロアは魔紋で相手の心の闇をある程度見抜いているはず。視線がとても冷たい。

 ちなみにどっち(・・・)だろう。ゲームのなかのキャムでも瀧亞瑠斗(たき あると)でも同じことをしそうなので、私には区別がつかなかった。

「まあ、よかろう。お主らが準備している間にワシらは買い出しに行ってくる」

 そう言って館を出た。向かった先は魔法具専門店で中に入ると、様々な植物や動物由来の成分が混じった独特なニオイがした。

「スクロール型のこの街を含んだ5万分の1の地図をひとつ。あと位置出し駒(・・・・・)をもらおう」

 必要なものを次々に注文していく、私はお手伝いするものもないので店のなかにあるどう使うのか想像もできない魔法の道具や転生前にテレビでもみたことのないような奇妙な生き物、そして骨董品のようなオモチャを眺めていた。

「それは賢者アールグレイのブリキ人形ですじゃ」
「ほう、その賢者アールグレイとは何者ですかな?」

 魔法具専門店の店主……パッと見、毒リンゴを片手に持って「イヒヒッ」と意味なく笑いそうな老婆から出た名に私はもちろん、バロアも初めて聞く名で興味をひいたみたい。

「この地方に伝わる伝説の賢者さまですじゃ」

 老婆の話では賢者アールグレイとは、歴史書には載っていない人から人へと口碑されてきた人物で実在したかどうかも定かではないそうだ。

 言い伝えとしては約300年くらい前にこの地方に現れた首が108本ある大蛇を退治したと語り継がれており、この地方に生まれた光の聖女を生贄に捧げようとした領主に対し、聖女と恋仲だったアールグレイはひとり大蛇と戦い相討ちとなったことでこの地方を守った英雄と崇められているそうだ。

「欲しいなら自分で買えばいい」

 バロアから毎月お小遣いはもらっている。魔法研究機関から一歩も外に出ない生活を送ってきたので、実は結構お金を持っている。

 ブリキ特有の丸いツヤのある光沢がなんだか可愛い。私はお言葉に甘えて賢者アールグレイのブリキ人形を買った。

 店を出た私とバロアはテイラー家の屋敷へ戻り、キャムとサラサのふたりと合流して、ここから半日ほど離れた郊外にある森へと向かった。

 ✜

「話で聞いたとおり、霧が出てきおったわ」

 バロアが少し眉を寄せて呟いた。だが、慌てる様子もなくスクロール型の横長の地図を広げて〝位置出し駒〟と呼ばれる現在地と向いている方向を地図に指し示す魔法具に魔力を込めて起動させた。

「もし魔獣が出たらボクが倒します!」

 キャム……瀧亞瑠斗(たき あると)は今のところその本性をみせない。でもいずれボロが出ると考えている。まずは彼が本当に瀧亞瑠斗(たき あると)なのかを見定めようと頭のなかで策を練っている。

 ちなみにキャムの手にあるのは、魔導書(グリモア)という古代文字が書き記された特定の魔法を発動・制御するための本を持っている。魔力を少し込めるだけで魔導書固有の魔法が発現する市場にはまず出回っていない稀少な魔法道具(マジックアイテム)になっている。

「静かに」

 殺した声でバロアは合図し、草むらに身を潜めたのでそれに倣う。

 紫色の煙の塊……テイラー家で聞いた情報どおりの外見で、地に足をつけておらず、フワフワと空中に浮いたまま私たちが潜んでいる場所の前を横切っていく。

「隙ありぃぃ!」
「よさんか、馬鹿者」

 バロアが制止したが遅かった。キャムが急に立ち上がったかと思ったら背中? を見せた紫色の煙の塊へ向けて手に持っている魔導書(グリモア)を発動させた。

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