👢 ブーツに恋して 👢  ~男と女、ブーツとブーツ、二つの恋の物語~  【新編集版】
 ……? 

 何がなんだかわからなかったが、意識をはっきりと取り戻す前に、わたしは掴まれて外に出された。
 そして、玄関の床に置かれ、いきなり足が入ってきた。

 えっ、
 ちょっと待って。

 でも、待ってはくれなかった。
 しっかりと中まで入ってきた。
 それでも、嫌な感じはまったくしなかった。
 一気に甘い匂いが広がったからだ。

 女性の足だった。
 すべすべした柔らかい女性の足だった。

 あ~、なんという……、

 夢見心地になりそうになったが、靴箱の扉が閉められて現実に引き戻された。
 見ると、全面ガラス張りだった。
 でも、そこにわたしの姿はなかった。
 ブーツがわたしを見つめていた。
 
 ブーツって……、 

 なんで? 
 どうして? 
 と思う間もなく女性は玄関を出て、コツコツと軽快な音を立てて歩き始めた。

 景色がどんどん変わっていく。
 物凄いスピードで変わっていくので、目がついていかない。
 それに、目の位置がバラバラだ。
 左目は左のブーツに、右目は右のブーツにあるから、彼女が左足を出すと左目が前に行き、右足を出すと右目が前に行く代わりに左目が後ろに下がるのだ。
 ピントというか、遠近感を掴むのが難しい。
 それに、急いでいるのか早足になってきた。
 
 左、
 右、
 左、
 右、

 動きが目まぐるしすぎて、まったくついていけない。
 しかも、息が上がってきた。
 
 もっとゆっくり歩いて!
 
 叫ぼうとした時、なんの前触れもなく足が止まった。
 
 ん? 

 信号だった。
 横断歩道の信号が赤になっていた。
 
 ホッとした。
 これで息が整えられる。


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