👢 ブーツに恋して 👢  ~とても不思議な恋の物語~【新編集版】
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 季節は春になった。
 暖かい陽気に包まれて、ご主人は楽しそうだ。
 でも、わたしは一切外に出られなくなった。
 ブーツの季節が終わったのだ。
 
 わたしは陰干しをされて、ブーツ専用の除湿剤を入れられて、その上、型崩れ防止のために新聞紙を縦に丸めて入れられた。
 そして、専用クリームで十分油分を補ってもらって艶々の肌になった時、靴箱にしまわれた。
 春眠、夏眠、秋眠の時がやって来たのだ。
 冬が来るまでわたしの出番はない。
 ただひたすら眠って、靴箱の中で冬が来るのを待つしかないのだ。
 
 でも、眠ることはできなかった。
「行かないで」とも言えずにジェンと別れたあと、わたしは涙が止まらなかった。
 いや、止められなかった。
 専用の除湿剤が吸い取っても吸い取っても効果がないほど泣き続けた。
 そのせいで、せっかく塗ってくれた専用クリームがべとべとになってしまった。
 
 それからあとは、靴箱が開いてご主人の手がわたし以外の靴に伸びるのを泣きながら見送り続けた。
 
 パステルカラーのパンプスやお洒落なハイヒール、時には軽やかなスニーカーが春のお供に出かけていった。
 
 汗ばむ陽気になると、色鮮やかなパンプスやお洒落なサンダルが元気よく靴箱から飛び出していった。
 
 そして、少し涼しく感じ始めた頃、シックなパンプスや大人びたハイヒールがしとやかにお供をするようになった。
 
 わたしは自分の出番がないことが辛かったが、それ以上にジェンとの別れが辛くて、尾を引いていた。
 だから、季節が移ろっても涙が止まることはなかった。
 ジェンのことを思うと、次から次へと溢れ出してきた。
 泣いても泣いても涙は枯れなかった。


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