【Quintet】
 葉山栄吉と結城冬夜、二人の曲者と対決して勝利した勇ましさは何処《いずこ》へ、わんわんと泣きわめく沙羅はやっぱり星夜が好きになったいつもの沙羅だ。

『……あのさぁ、沙羅。抱き付いてくれるのは大歓迎だけどお祖父さんの前だし……』
「だって嬉しいんだもん……」

正直、堅物な父親の前で抱擁シーンを繰り広げるのは恥ずかしい。二人っきりならキスのひとつやふたつや、みっつやよっつ、絶対にしてしまっていた。

『沙羅。星夜くんを困らせてはいけないよ』
「……はい、お祖父様。お見苦しいところをお見せしました」

 星夜の動揺を見抜いていた栄吉の一言で瞬時に沙羅はおとなしくなった。

『昔からお前だけは私の目を見て物申す子だったな。男じゃないのが本当に惜しい。沙羅が男なら文句なく葉山の跡取りにさせてるものを』
「女に生まれて良かったです。葉山の跡取りにはなりたくありません」

 沙羅の発言に酒を口に運ぶ栄吉は快活に笑っていた。酒が入ると陽気になるタイプかもしれない。
この老人も不器用なだけで本音は孫が可愛くて仕方がないのだろう。

 葉山邸を出る頃には、外は夕暮れの色に染まっていた。沙羅はよほど疲れたらしく、リムジンが動き出してしばらくすると眠りの世界に旅立っていった。

『到着しましたが……お嬢様はいかがされました?』
『大丈夫です。寝てるだけですから』

沙羅は星夜の肩にもたれて寝入っている。彼は携帯電話を取り出して悠真に連絡した。
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