【Quintet】
 眠る沙羅を抱き抱えて葉山家のリムジンを降りた星夜と、マンションのロビーまで迎えに来た悠真が合流する。

『相当疲れたんだな』
『戦国時代までタイムスリップして出陣した後だからねぇ。敵の首領はなかなか曲者だったよ』

 悠真に沙羅を引き渡し、星夜は両腕を天に向けて伸ばした。

『婚約の話はなくなった』
『うん』
『バンドも続けられる。沙羅が親父に食ってかかったんだ。最後は親父も降参って感じで苦笑い』
『沙羅、頑張ったんだな。かなり無理もしただろうに』

悠真が愛しげに見つめる先は沙羅の寝顔。悠真がこんな甘い顔を見せるのも沙羅限定だ。

『沙羅は強いよ。俺らが思ってるよりも……ずっと強い』
『強くならないと美琴さんの死を乗り越えられなかったんだろう。今も乗り越えようと必死だよ。その分、俺達が甘やかしてやるんだ』
『悠真は沙羅にベタ甘だよなぁ』
『お前もな』

こんな軽快な軽口を言い合えるのもバンドを継続できるからこそ。星夜は沙羅に諦めない強さを教えられた。

 十九階のただひとつの扉の先には温かい我が家。出迎えたのは晴だ。

『海斗は?』
『部屋。帰って来てからずっと閉じ籠ってる』
『晴、悪い。沙羅の部屋の扉開けて』
『おお、はいよー』

 寝ている沙羅を部屋に運び入れる悠真を横目に、星夜は二階に上がった。
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