【Quintet】
 海斗の部屋をノックしても無反応だった。勝手に開けるとベッドに寝そべる海斗が顔を上げた。

『ただいま』
『……どうなった?』
『残念ながら無事に? 沙羅との結婚はなくなりましたぁー!』
『ふーん。残念だったな』

星夜のピースサインにも海斗は顔色を変えない。内心は安堵しているくせに隠している。

『ホッとしてるくせに。あと、UN-SWAYEDも辞めなくていいって』
『……当たり前だろ。誰が辞めていいって言った?』
『俺様何様海斗様はまったく、素直じゃないねぇ。ま、そういうことなんで。これからもよろしくねぇ、カイくん』
『その呼び方ヤメロ。……星夜』

 呼び止められた星夜が見たものは海斗の笑顔。口の端だけを上げたこの顔は喜びの表情だ。

『良かったな』
『ああ。色々、Thank You』
『無駄に英語の発音いいよな。気取りやがって』
『これでもトリリンガルなもので』

 笑って海斗の部屋を辞した星夜は隣の自室に入った。青葉台の結城家の自室よりも少し狭い、だけど好きな物で溢れているこの部屋がどこよりも落ち着く。

ジャケットを脱いでネクタイをほどく。南東向きの窓の外は日没を迎えてインディゴブルーに侵食されていた。

 長らく星夜を悩ませていた問題は一応の決着を見せた。しかしまだ解決しなければならない問題がある。

3年前に家出した双子の兄の純夜。晴が知り合いの弁護士に純夜の捜索を頼んだ話は聞いている。

 もし純夜が見つかったらまず彼になんて言うのだろう。弟にすべてを押し付けて逃げ出した兄を許せるのか。

今はまだわからない。


第二楽章~四季~【Spring】編 END
→【Summer】編 に続く
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