【Quintet】

【Summer】

 ~その人は夏の嵐のように荒々しくて嵐を喜ぶ子どもみたいに無邪気な人~

        *

5月2日(Sat)

 太陽の日差しが眩しく差し込むリビング。だるそうにソファーに座っている海斗の脇の下で体温計が音を鳴らした。海斗の手から体温計を取り上げたのは悠真だ。

『37.8か。今日は寝てろ』
『微熱じゃねぇか。大したことない』
『ボーカルのお前が風邪で喉やられでもしたら仕事にならない。リーダーとして言うが、悪化する前に早いとこ治せ。じゃないと明後日のキャンプも留守番だぞ』

 悠真が醸し出す問答無用の空気には海斗も逆らえない。こういう時の力関係はまさに兄と弟、リビングにいた海斗は渋々自室に引っ込んだ。

『俺達仕事行くけど海斗のこと頼める?』
「任せて。しっかり面倒みるから」
『休みなのにごめんな。きっと星夜の問題が片付いて気が抜けたんだろう。海斗は昔から精神的にダメージ受けた後は熱出すんだ。星夜がバンド抜けるって言い出したのがよほど堪えたのかも』

そう言って笑う悠真は“お兄ちゃん”の顔をしていた。高園兄弟は普段は口喧嘩が絶えないけれど本当はとても仲が良いのだろう。
海斗も悠真の意見には逆らわない。
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