【Quintet】
 海斗の唇が沙羅の唇に押し当てられた。脚をばたつかせたり彼の胸元を押したりして抵抗しても、脚は海斗の脚に絡めとられ胸元を押していた右手は海斗の左手と繋がれた。

『沙羅、口開けて』

 沙羅は固く口を結んで首を横に振った。海斗と繋いでいない左手を口に当てて防御を試みてもそんなものないに等しい。

『ふーん。口開けると何されるかわかってるんだな』

不敵な微笑みさえも女の心臓を騒がせるのだから顔がいい男はずるい。顔が良ければワガママも許されると思っているだろう、特にこの男は。

(嗚呼……私って野生動物に食べられる獲物みたい……。これぞ食物連鎖……)

 体調不良だから変なことをする気にもならないと高を括《くく》っていた数分前の自分を叱りたい。この野生動物は最初から襲う気満々だった。

防御の左手もあっさり退けられ、再び迫る海斗に沙羅は叫ぶ。

「海斗! 待って! 熱上がっちゃう……」
『沙羅が本気で嫌がってるなら止めるけど? 俺だってそこまで外道じゃねぇよ』

 本気で嫌がる……?
抵抗はした。でも嫌ではなかった?
キスは恋人同士がするものだから恋人ではない海斗とはキスできない?

星夜ともそうだ。星夜ともキスをするのは抵抗がある。それでも最後は彼を受け入れてしまう。

流されてばかりで嫌になるのに、二人の男からの好意に不快感は感じない。
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