【Quintet】
 5月の第三週の日曜日、沙羅は晴と初台《はつだい》のスーパーに買い物に出掛けていた。

『海斗と小さい頃に会ったことがある、ねぇ……』

果物売り場でオレンジを手にする晴が振り向いた。沙羅は頷いて、買い物カゴにグレープフルーツとオレンジを二つずつ入れた。

「私が5歳くらいの頃にお母さんがヴァイオリン教室をやってたの。教室にはピアノも置いてあって、私より少し年上の男の子と連弾《れんだん》して遊んでたんだ。その子はカイくんって名前だった」
『それが海斗だって?』
「うーん……。はっきりとは言えないけど……。でも海斗がピアノ弾いてる姿は見たことないなぁ」

日曜日のスーパーは混雑している。晴が押すカートの上と下に乗る二つの買い物カゴには山盛りの食材が積まれていた。

「海斗ってピアノ弾ける?」
『歌詞作りでメロディの確認するためにキーボードは触ってるし、弾けないことはないんじゃないかな。子どもの頃の話、海斗に直接聞いてみれば?』
「でもなんか……二人っきりになると……」
『あー、海斗はキス魔になるもんなぁ。誕生会の後もテラスでチュッチュしてたしねぇ』

 沙羅は赤い顔で晴を見上げた。12日の誕生日パーティーの後、初めての飲酒で酔った沙羅はテラスで夜風に当たって酔いを覚ましていた。

そこへ現れた海斗と四度目のキスをしてしまったのだが、あの場面は誰にも見られていないと思っていた。

「み……て……た?」
『おう。ばっちり。あの時は星夜は風呂で悠真は音楽室籠ってたから、見てたのは俺だけだけどな。海斗との熱烈キッスを目撃したのが俺で良かったよ』

快活に笑う晴にポンポンと頭を撫でられて恥ずかしいやらなんとやら。
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