【Quintet】
 誰を責めても由芽は生き返らないとわかっていても、誰かを責めて罵倒して憎むことでしか空っぽになった心を埋められなかった。

『俺は早河を責められなかった。アキが命を懸けて守った命が早河だ。だからアキがそこまでして守った早河が立ち上がるのを待ってた。早河から探偵事務所の顧問弁護士を頼まれた時も迷いはなかったよ。アキが相棒と認めた早河にとことん付き合ってやろうと思ったんだ』
『龍牙さんはそんなことまで……』

龍牙が探偵事務所の顧問弁護士を受け持っている話は初耳だ。守秘義務がある弁護士は誰であっても部外者には仕事内容を語らない。

『そうしたら、なぎさが早河の事務所に転がり込んできてな。話を聞いた時は俺も笑いが止まらなかった』
『なぎさちゃんはフリーでライターをしているんじゃ……』
『物書きの傍らで早河の助手やってる。最近じゃ本業が探偵の助手みたいだって早河がぼやいてた』

 確かにあの探偵事務所には随所に女性の気配が感じられた。
殺風景な事務所には花瓶に生けられた花があった。早河探偵はお世辞にも花を愛でそうには見えない。
< 194 / 433 >

この作品をシェア

pagetop