【Quintet】
 ペン立て代わりのマグカップは赤と白のハート模様。他にも女性社員の存在を匂わせる物がいくつかあった。
あれらは探偵の助手を務める香道なぎさの持ち物なのだ。

『でもなぎさちゃん、今日はいませんでしたね。会ってみたかったです』
『探偵の助手の仕事は日曜は休みらしい。なぎさはお前らのファンだから、いつか会えたらサインでも書いてやってくれ』

 窓から見える濡れた街には傘の花が咲いていた。
雨宿りにカフェで過ごす人々が耳を傾けるのは店内に流れるジャズピアノの音色。雨の日にはコーヒーとジャズピアノがよく似合う。

『生きている人間は生きることでしか償いはできない。早河もアキを死なせたことを後悔しながら生きてるんだ』

後悔しても生きることでしか償えない。
由芽はもういない。由芽を守れなかった晴と由芽の死の原因を作った律。
後悔しながらも二人は前に進むしかない。

 思えばUN-SWAYEDは喪失者の集まりだ。晴は由芽を、星夜は母親を、悠真と海斗は幼い頃に師事していたヴァイオリンの先生を。

 ノスタルジーなヴァイオリンの音色を伴って寒空に輝くベテルギウス、プロキオン、シリウスの神秘的な冬の大三角。
物語は秋の太陽から冬の夜空へ……。



第二楽章~四季~【Autumn】編 END
→【Winter】 編に続く
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