【Quintet】
 彼氏が欲しいと嘆く瑠衣は開いた雑誌の記事を指差した。

「ねぇねぇ、初恋の平均年齢6歳だって」

瑠衣が読んでいるのは、女性ファッション誌シェリの最新号で〈シェリ読者の恋愛平均値〉と題された特集ページ。

「6歳かぁ。幼稚園の頃って優しかったり足が速いだけで好きになってたよね」
「わかる。小学校の時もクラスで一番足の速い男の子が人気だった。今考えるとそれほどカッコよくなかったなぁ」
「私も初恋は幼稚園パターン。でも初恋の人と中学まで一緒だったけど、成長する奴を見て全然イケてないから後悔した。私の清らかな初恋を返せーっ!」

 瑠衣、亜未、織江、雪子、皆が初恋の思い出を語るのを沙羅は聞き役に徹していた。話に加わらない沙羅に雪子が話題を振る。

「沙羅は初恋どんな男の子だった?」
「えっと……うーん……。多分小さい頃だったと思うんだけど、よく覚えてないんだよね」

 苦笑いして場を切り抜けた沙羅は幼少期の記憶を探った。
幼稚園の記憶は断片的には思い出せる。母のヴァイオリン演奏会に父と一緒に出掛けたことも覚えている。

 でも何故だろう。何かを忘れている気がする。記憶の海の底にキラリと光る淡い思い出。
ピアノを連弾したカイくんの他にもうひとり、男の子がいた。

彼の名前は……ゆうくん。

(カイくんが海斗なら……ゆうくんは……)

淡い思い出のBGMは優しさと穏やかさに溢れるヴァイオリンのメロディ。

 悲哀なのに優しい
 切ないのに美しい

 澄んでいるのに奥深い
 泣いているのに微笑んでいる

 掴み所のない、限りなく透明に近い色。
 “彼”が奏でる音は澄んだ水色……。

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