【Quintet】
『ん……沙羅?』

 目覚めた悠真の一声で沙羅は我に返った。

「……おはよう……」
『おはよ。……お帰り』

寝そべった姿勢のままで悠真は沙羅の頭に手を伸ばす。優しい手つきで彼に髪を撫でられて恥ずかしくなった。

「ただいま……」
『今……沙羅の夢見てたんだ』
「私の夢?」
『うん。沙羅が笑ってた。俺だけに……笑いかけてくれる夢』

寝起きでかすれた悠真の声は艶《なまめ》かしい。髪に触れていた彼の手が沙羅の頬に触れた。

『これが現実になればいいのにって思った。だから目が覚めたら沙羅がいて……すげー嬉しかった』

 悠真の真剣な眼差しに捕らえられて惹きつけられて、そらせない。腕を引かれた沙羅は仰向けに寝そべる悠真の胸元に顔を押し付けられていた。

 悠真の心臓の音が聴こえる。
ドクン、ドクン、ドクン……。自分の鼓動と悠真の鼓動。この速さはどちらの鼓動の音?

密着した体が熱い。身体を起こそうとしてもきつく抱き締められて動けない。

『……俺も本気出そうかな』
「本気……?」

 切ない声の色が気になってやっとの思いで顔を上げた沙羅の視線と悠真の視線がぶつかった。

『好きだよ』

悠真の口からその四文字が紡がれた瞬間、心の奥に甘い痛みが走った。それと共に頭の中は真っ白。
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