【Quintet】
 だらしなく口を開けて放心する沙羅を見た悠真は目を細めて笑った。

『そんなに驚くこと?』
「だって……悠真が……私を好き……なんて……」
『信じられない?』
「だって、だって! 超絶イケメンで芸能人でUN-SWAYEDのリーダーでギターが上手くて優しくて料理もお裁縫もなんでもできる完璧マンの悠真が……」
『今ので沙羅が俺をどう思ってくれてるかよくわかった。……おいで』

 上体を起こした悠真に誘われて沙羅は彼の膝の上に向かい合って座らされた。沙羅の腰に回された悠真の両手は彼女を逃がさないようにしっかり組まれている。

「あの……これ……恥ずかしい……」
『そう? 俺は楽しいよ』

ニコニコと穏やかに笑う悠真を沙羅はねめつけた。人が恥ずかしがっているのにこの男はそれを見て面白がっている。

 悠真は優しいのに、たまに意地悪だ。

『俺だってそんなに完璧じゃないんだよ。失敗もするし間違いもする。できないことだってある』
「……できないこと?」
『今ここで沙羅を俺だけのものにしたいのに怖くてできない。沙羅に嫌われたくないから、沙羅が嫌がることはできない』

また心の奥が痛くなった。何かが甘く疼いて騒ぎ出す。

『海斗と星夜とキスしてるんだろ?』
「……うん」
『二人のこと、好き?』
「好き……だけどまだよくわからない。わからないのに、二人とキスはしてて……。だから私なんか悠真に好きになってもらう資格ないんだよ。もっと他に可愛くて優しくて、悠真だけを見ててくれる人がいるもん。私なんか好きなっちゃダメだよ……」
『沙羅。私なんか、は禁句。俺の好きな女の子の悪口言わないで?』

 悠真の人差し指が沙羅の唇に軽く触れた。ギターを奏でる骨張った指先が沙羅の赤い唇をなぞる。
< 202 / 433 >

この作品をシェア

pagetop