【Quintet】
 薄く開けた沙羅の唇の隙間から悠真の人差し指が口内に侵入してきた。驚いた沙羅は悠真の指に歯を当てないように注意しつつも、反射的に彼の指を舐めていた。

 沙羅の舌が触れても悠真の指は口内から動かない。彼はギタリストとして命の次に大事な指を他人の口の中に入れている。

悠真の細長い指はやはりゴツゴツとした男の手をしていて、男の指を口に咥えて舐める行為はとても卑猥に思えた。

 またペロリと悠真の指を舐めると彼は眉間にシワをよせて吐息を漏らした。悠真のこんな顔は初めて見る。

『……ごめん。もういいよ。これ以上は危ない』

 唾液の糸を引いて沙羅の口内から指が抜かれた。二人を包む熱を帯びた空気。
無意識にしてしまった指を舐める行為に今さら羞恥心が芽生えた。

『ピアノ使う? 練習に来たんだよね』
「……うん、そうなの! テストの課題曲が発表されてね、苦手なベートーヴェンだから練習しないとって思って、でも悠真の仕事の邪魔したくないし……」

素早く悠真の膝の上から退いた沙羅は早口でまくしたてた。
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