【Quintet】
 口元を覆う左手の防御は簡単に失われた。引き寄せられた沙羅の左指が悠真の口内に侵入する。

悠真の熱い口内に入り込んだ沙羅の左手の人差し指。絡み付いた男の舌に舐められた瞬間、彼女の華奢な肩がピクッと震えた。

自宅の音楽室で沙羅が悠真にした行為と同じ行為だ。指を舐められているだけの行為が、とても卑猥で羞恥心を煽る。

 必死で口元を押さえていた右手も限界だった。
膝が震えるのは恐怖からじゃない。熱くなる身体はアルコールのせいじゃない。

身体の奥からとろりとしたものが溢れる感覚は初めての経験。きっとこれが情欲だ。

左の手の甲から指先に向かって悠真の舌がツッ……と滑った。押さえた口元から漏れたくぐもった甘い声が、自分の声だとは信じられない。

 与えられる刺激に堪えきれなくなり、右手の防御が解かれた隙に奪われた唇。

擦り合わせた二つの唇が舌を絡ませて深く繋がる。アルコールの味の大人のキスは激しく吸われて舐められて、息もさせてもらえない。

 リップ音を響かせて繰り返される悠真のキスの雨は、星夜のキスも海斗のキスも、覚えていたくても忘れてしまう魔力があった。

秘めた淡い水色の恋は赤と黒の熱情に染まる。
暗闇のキスは幼少期の初恋の終焉。

『もう一度、俺に恋させるから』

 解かれた唇の拘束の合間。吐息混じりの呟きに答える暇もなく、再び唇が塞がれた。



第二楽章~四季~【Winter】編 END
→第三楽章 テトラコルド に続く
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