【Quintet】
 午後8時に沙羅の携帯電話が着信した。受信欄の名前は星夜だ。今から帰るとのメールだった。

武道館ライブとファンクラブ設立を発表してからの四人は、これまでよりも多忙を極めていた。海斗と星夜はライブに向けてボイストレーニングに励む傍ら、セットリスト作りにも取り掛かっているらしい。

個々での休みはあっても四人揃っての休みは今月はゼロ。夕食の食卓に五人が揃うのも最近では数回しかない。

 午後8時半を回った頃に玄関の扉が開いた。

「お帰りなさい」
『沙羅ぁー! ただいまっ!』
『いちいち沙羅にひっつくな』

 沙羅に抱き付く星夜を引き離す海斗、このやりとりも今では見慣れた日常風景だ。
星夜と海斗に続いて最後に玄関に入ってきたのは晴。帰宅したメンバーの中に悠真の姿はなかった。

「悠真は?」
『アイツはまだ仕事が残っててね』
『今日は雑誌のインタビューがあったんだ。いつものリエットと、週刊誌と、ティーン向けファッション誌の三本立て』

 三人はそれぞれがリビングのソファーの定位置に身体を沈めた。海斗に至ってはクッションを枕にして寝そべっている。

「1日でそんなにインタビューするの?」
『俺らはインタビューだけで写真撮影がないだけマシだよ。うちの看板俳優の一ノ瀬蓮クラスになるとインタビューと見開きのグラビアページと表紙撮影まであるんだ』
『俺達も素顔解禁になったらそういう撮影もあるんだろうなぁ』
『これで撮影もってまじ勘弁……。俺は歌の仕事だけでいい……』

三人はいつになく憔悴していた。今日の仕事は相当ハードな内容だったようだ。
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