【Quintet】
 バーテンダーが差し出したカクテルはアルコール度数の高いマティーニ。透明なグラスに入る透明な液体が北山圭織の喉に流し込まれた。

神保町のバーのカウンター席に悠真と圭織は肩を並べて座っている。
店内の壁の一面は本棚になっていて、タイトルだけでも興味を惹かれる本がいくつもあった。さすがは本の町、神保町だ。

「次はブルームーン? お洒落なセレクト」

彼女は悠真の前に置かれた紫色のカクテルに目を細めた。このカクテルはブルームーン。二度目の満月の名がつく酒だ。

「見た目通り結構いける口ね」
『北山さん。そろそろ要件を教えていただけますか?』

 並木出版でインタビューの原稿チェックを終わらせた悠真は圭織から二人だけで話があると誘いを受けた。
彼女が行きつけの神保町のバーで飲み始めて20分が経過するが、圭織はなかなか本題を話さない。

「せっかちねぇ。夜は長いのよ。美味しいお酒をもっと楽しみましょうよ」
『酒を楽しむにはそれなりの時間的余裕とメンタルのゆとりが必要です。あいにく、今夜の俺はそのどちらも欠けている』
「ふぅん。ここで楽しんでいるのは私だけだと遠回しに言いたいのね」

カクテルグラスを持つ圭織の爪の色は緑にも青にも見える。光の加減で色が変化して見える玉虫色のネイルだ。
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