【Quintet】
「森口亜紀子、この名前に心当たりない?」
『森口?』
「写真を見せた方が早いか。これが森口亜紀子。7年前に離婚して今の姓は北山亜紀子、私の姉よ」

 圭織の携帯電話の画面には、ヨーロッパの街並みを背にして映る二人の女の写真が表示されている。無愛想な顔で写る圭織の隣には笑顔の女がいた。

玉虫色の爪が笑顔の女の方を指差している。

「思い出した? 姉さんは私と違って美人よね」
『亜紀子さんの妹さんでしたか』
「驚かないの?」
『世間は狭いとは思っていますよ。どうして俺のことを妹のあなたがご存知なんです?』
「昔、あなたと一緒に撮った写真を姉に見せてもらったの。夫がいるのに年下の美少年の恋人がいる自分を誇らしげにしてね。モテないあんたと違って私は高校生の男の子と遊んでいるのよって、いい気になって」

マティーニのグラスが空になった。圭織の飲酒のペースが速くなっている。

「姉に飼われていた美少年が今や人気バンドのギタリスト。あんなに綺麗な顔、忘れたくても忘れられないもの。今日あなたと会った時に姉と関係があったあの高校生だとすぐにわかった」
『それで俺にどうしろと?』
「姉が惚れ込んでいたあなたを今度は私が飼うの。楽しいお遊びでしょう?」

 悠真がかつて交際していた亜紀子は彫りの深いエキゾチックな美人顔。対して妹の圭織は不美人ではないが、ひとつひとつのパーツが小ぶりな顔は美形の姉と並べば見劣りしてしまう。

どちらかと言えば似ていない姉妹だ。
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