【Quintet】
『お姉さんが嫌いなんですね』
「嫌いよ。美人なのを鼻にかけて男を喰い放題のあの女からいつか男を奪ってやりたいと思っていたの。今だって年下の恋人が何人もいるのよ。薄汚い女狐《めぎつね》よね」

 姉への歪んだコンプレックスをぶつけられても迷惑だ。姉妹の喧嘩は他人を巻き込まずにやってもらいたい。

 延々と続く圭織の姉への恨み辛みを聞き流して1時間、苦痛な酒場から解放された悠真の隣を足元がおぼつかない圭織が歩いている。

『タクシー拾いますから……』
「ねぇ……今でも年上の女と遊んでいるの?」

飲み屋が並ぶ通りで立ち止まる男と女。圭織は悠真の胸元に赤らんだ顔を伏せていた。

「姉はいくら出したの? いくらであなたと遊んでいた?」
『お姉さんから金銭やプレゼントを受け取ったことは一度もありません。当時は俺は学生であちらは社会人でしたから食事やホテル代は出してもらいましたが、お姉さんに身体を売った覚えはない』
「姉とは売春関係じゃないと?』
『ええ。フェアな男女交際です。疑うのならお姉さんに確認してください』

顔を上げた圭織の顔が不快に歪む。酒と香水が混ざった匂いが神保町の夜の空気に流れて消えた。
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