【Quintet】
 玄関の扉が開く音に沙羅の肩が跳ね上がった。慌てて玄関ホールに飛び出した沙羅と驚いた顔の悠真が対面する。

『今日は夜更かしだね』
「眠れなくて……。おかえりなさい」
『ただいま』

こんな時間まで起きていたことを咎めるような悠真の視線が痛かった。普段と同じ優しい声色で言われた『ただいま』も、なんだか今夜はよそよそしい。

『ごめん、水の用意してもらえる? 頭痛薬飲みたい』
「すぐ用意するから待ってて……」

 すれ違った悠真の身体からは酒の匂いがした。酒と煙草と、甘ったるい……香水の匂い?

先にリビングに入った彼を追って沙羅もリビングに舞い戻る。ソファーに仰向けに横たわる悠真は額に手を当ててぐったりしていた。

(あれは香水の匂い? だったよね。悠真は仕事の時は香水つけないから……誰の匂い?)

 また心が霞んで見通せない。モヤモヤ、モヤモヤ、ぼやけて見えない心の奥。

 水を入れたグラスと頭痛薬を持ってソファーに横になる悠真に近付いた。

「悠真。薬……」

声をかけても反応がない。もう一度名前を呼んでも彼は閉じた目を開けなかった。

「寝ちゃってる……?」

寝ているのか、意識はあるが今は動きたくないだけなのか、これでは判断がつかない。
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