【Quintet】
 優しい悠真と優しくない悠真。
どちらが本当の悠真?

『でもこれからも付き合いで女と二人で酒を飲む機会はある。仕事の話に託《かこ》つけた誘惑も多い。今日だってそうだ。今日誘ってきた女は俺が昔付き合ってた女の妹だった。……知りたくなかっただろ?』

心に走った亀裂は深い。
沙羅の知らない過去がある。沙羅の知らない悠真がいる。当然のことが許せないのは自分がまだ子どもの証拠?

『俺は沙羅だけがずっと好きだよ。沙羅が初恋だった。だけど沙羅を一途に思い続けられるほど強くはなかった。欲の捌け口にして捨てた女も多い。俺は海斗みたいに一途じゃない、星夜みたいにすべての女に優しくもなれない』

 沙羅は悠真が初恋だった。悠真も沙羅が初恋だった。
幼き日の淡い水色の恋心はそのままの色を保てないの?
嫉妬と独占欲の黒色に汚された水色の初恋。

『女と酒を飲んできたのが海斗か星夜でも沙羅は今と同じように嫉妬して、自分からキスするよ。俺だけが特別じゃない』
「……そうかもしれない。でも私は……」

 言いかけた言葉は強引なキスで塞がれた。こじ開けられた唇の隙間から侵入した彼の舌が臆病な沙羅を捕まえる。
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