【Quintet】
 唾液と唾液が混ざる音と甘く漏れる沙羅の声は卑猥な行為を連想させた。

「こんな時でもキス……するの?」
『でも私は……の続きを聞きたくなかった。聞いたら戻れなくなる。今の俺は自分を制御できない。このまま沙羅を押し倒して抱きたくなる』

耳元で囁かれた欲情の言葉に心臓が騒いだ。下半身の奥が疼いて甘く鳴いている。

『海斗と星夜は沙羅の側にいてくれる。あいつらは優しいよ。沙羅だけを大事にしてくれる』

 中途半端に熱情を植え付けて中途半端に優しくして、彼は彼女から離れた。
悠真はキスの余韻にも浸らせてくれない。
残酷な言葉を残して去る酷い男。


 ──“女と酒を飲んできたのが海斗か星夜でも沙羅は今と同じように嫉妬して、自分からキスするよ”──


 悠真の指摘は図星だった。海斗か星夜でも沙羅はヤキモチを妬いていた。
海斗や星夜の周りに女の影が見え隠れしても、今と同じで嫌な気持ちになっていただろう。
でも自分からキスをしたかはわからない。

悠真にだけ芽生える切なさの感情もキスをしたいと思った衝動も、恋ではないの?
霞んでぼやけた心の真ん中にいるのは……だぁれ?
< 302 / 433 >

この作品をシェア

pagetop