【Quintet】
 沙羅を置いてリビングを出た悠真は廊下で海斗と鉢合わせした。睨み合う兄弟は交わす言葉もなく互いに背を向ける。

『……どこから見てた?』
『見られて困るようなことしてたのか?』
『別に』

 階段を上がる悠真の足音を背にして海斗はリビングに入った。彼は立ちすくむ沙羅の小さな身体を後ろから包み込む。

『沙羅』
「海斗……?」

 沙羅は泣いていた。抱き締めた身体も涙で湿った声も、悲しみに震えている。

泣かせたのが兄だと思うと、余計に抱き締める腕に力がこもった。
沙羅を泣かせる人間は許さない。それが兄であろうと。

『俺にしろよ……。沙羅』



第三楽章 END
→第四楽章 ラブソング に続く
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