【Quintet】
 目付きも顔つきも余裕を失い、雌の身体を貪るだけの雄に成り果てた優美な男の姿に沙羅は見惚れた。
品のいい理知的な仮面を外した悠真を独り占めできるのは自分だけ。

『沙羅……。好きだよ』

吐息混じりの妖艶な彼の声で愛を囁かれるのも自分だけ。悠真のすべてを独り占めできる存在は自分だけだ。

 今ここには理性も羞恥も捨て去った、顕現《けんげん》の愛を求める男と女がいる。
愛は見えない。だからこうして身体を重ねて感じ合う。

心と繋がる、身体の交わり。

 悠真の汗ばんだ背中に手を回す。湿った肌に手を添えてぎゅっと抱き付いた沙羅は、彼の首筋に鼻を近付けた。

好きな人の匂いは性的な興奮と精神の安定をもたらす匂いだと思う。興奮と安定だなんて矛盾しているなと、ちょっと可笑しくて笑えた。
吸い込んだ首筋の匂いも、そこを濡らす汗も独り占め。

 キスも優しく時に激しく、愛してると囁いて二人は同時に快楽の海に沈んだ。

 そのまま永遠に、二人だけの水色のメロディが流れる海の底に沈んでいられたら……。

それだけで、幸せだったんだ。




第四楽章 END
→最終楽章 クインテット に続く
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