【Quintet】
「私が選んだ楽器がお母さんと同じヴァイオリンじゃなくて良かったってたまに思うんだ。ピアノだからまだお母さんと比較されない、ヴァイオリンだといつまでも比べられる……。お母さんは好き。葉山美琴の演奏も好き。でも“葉山美琴の娘”は……嫌い。こんなに自分が嫌いな私を悠真も、海斗や星夜もどうして好きになってくれたのか不思議なの」

 自分を好きになれない理由は母親と比較されて育ったゆえの自信のなさ。
自信のなさは演奏にも現れている。ピアノを弾いている時は自由でいられても、天才の娘の肩書きに怯える沙羅のメロディは少しの自信が欠けていた。

演奏に対してもっと傲慢になりなさいと教師に言われたのは高校の頃だった。

「はぁ……。彼氏ができて幸せなのにどうしてこんなに落ち込んでるんだろう。私すっごくネガティブだよね。ごめんね」
「ううん。ネガティブな気持ちはどんどん吐き出していいんだよ」

 美月は膝を抱えて背中を丸める沙羅に寄り添った。
偉大な親を持つ者の悩みは美月にはわからない。沙羅の抱える苦しみを理解できるとは言えなかった。
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