【Quintet】
第二楽章 ~四季~

【Spring】

 ~その人は春の宴を舞う蝶々のような華やかで自由な人~

        *

4月23日(Thu)

 都内のレコーディングスタジオに集まるUN-SWAYEDの面々。今日は8月に発売するセカンドアルバムのレコーディング日だ。

まずはボーカルの海斗を除いたギターの悠真、ベースの星夜、ドラムの晴の音録りから始まった。
午前中に三人での音録りをした後は個別での録音作業。晴のドラムが終わり、今はベースの星夜の音録りの真っ最中だ。

{SEIYA、Bメロからやり直してー}

 レコーディングルームのガラス張りの壁の向こうからマイク越しにレコーディングエンジニアのダメ出しの声が飛んできた。
まただ。さっきから同じところを何度もやり直しさせられている。

 舌打ちした星夜はガラス張りの向こうにいる悠真と目が合った。エンジニアと話をしていた悠真が再びこちらを向く。

{星夜、少し休憩だ。出てこい}

 星夜は悠真からの休憩の指示に素直に従った。肩を落としてレコーディングルームから出てくる星夜と悠真は連れ立ってスタジオ内のラウンジに入った。

『ごめん。俺のせいでレコーディング長引いてるよな』
『お前の不調の原因は親父さん?』
『さっすが悠真だな。なんでもお見通しか』

自販機で飲み物を買ってソファーに並ぶ。二人しかいないラウンジのテーブルにはマネージャーや業界関係者からの差し入れの食べ物が並んでいた。

レコーディングが押して昼食も食べていない。もう夕方だ。スタジオに籠っていると時間の感覚を失くしてしまう。

『お前の様子が変なことくらい、海斗も晴も気付いてるよ。実家帰った時に何かあったんだろ?』
『……俺の居場所はここだけなんだよ。お前がいて海斗と晴がいて、沙羅がいて……。俺はお前らが側にいて、お前らと一緒に音楽やれたらそれで満足なんだ。他の物なんか何も欲しくない』

 溜息混じりに呟く星夜に悠真は何も言わない。
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