鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~
「ここだけの話。僕は王太子になりたくない。僕も好きな人がいるからね。その人と結ばれるためには、この地位が邪魔になっている」
「……失礼ですが、お相手の方のご身分は?」
「商団のお嬢さん」

 小声で言うクライド殿下。私はやっぱり、と思ってしまった。

 相手が貴族であれば、王子の地位が邪魔だとは思わず、王太子にだってなりたくない、などという戯言は言わないはずである。だから相手は自然と、平民だと思った。

「その方もクライド殿下と結ばれることをお望みで?」
「……ヘイゼル嬢は遠慮がないね」
「申し訳ありません」
「いや、だからこそ、この話を持ちかけたわけだけど……勿論、彼女もそれを望んでいる」

 しかしそれはクライド殿下が王子だから。王太子に誰よりも近い存在だから、相手もクライド殿下を望まれた可能性もある。だから聞かずにはいられなかった。
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