鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~
「……なんでしょうか。遠慮せずに聞いてください」
「では、私とお会いしたのは何時のことでしょうか。クライド殿下から聞いたのですが、記憶にないものでして……」

 私は目をパチクリさせた。デニス様の言葉に対してではない。クライド殿下に何を?

「……お聞きしたのでしょうか」
「はい? ヘイゼル嬢。申し訳ないのですが、もう少し大きな声でお願いします」

 デニス様は私の声を聞き取ろうと顔を近づける。わざと声を小さくしたわけではないのだが、急な接近に胸がうるさく鳴った。

「すみません。クライド殿下から何をお聞きしたのか、気になったものですから」
「あぁ、そうですよね。言葉足らずでした」
「いいえ、お気になさらず」

 私は長話になると思い、再びデニス様に椅子を進めた。
 けれど本来、護衛は扉の前か外で立っているもの。先ほど断られてしまったが、私は気にせずに座るよう促した。すると当然、デニス様は困惑した表情になった。
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