鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~
「ここには私とデニス様しかいません。誰も咎めませんわ」

 普段なら、貴族令嬢と令息が二人きりで部屋にいることは、あらぬ疑いをかけられる。たとえば不貞。密室にいるだけで、純潔を失ったと判断されてしまうのだ。
 けれど私とデニス様の関係は、王子の婚約者とその護衛。二人きりでいても、何も問題はなかった。

 嬉しいようで、ちょっと悲しい。

「……では、お言葉に甘えて」

 一瞬、過った沈んだ感情など、デニス様が向かい側に座った時点で吹っ飛んだ。

「実はクライド殿下から、その……ヘイゼル嬢が私のことをす……いえ、気にかけていると聞いたので、そのキッカケは何だったのかと……」

 ク、クライド殿下ーーー!!

 今から王城に殴り込みに行って、その尊いお耳に向かって、大声で叫んでやりたかった。それはもう、鼓膜が破れるほどに。

 いや、その前に私のことだ。穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。けれど求められているのなら、答えなくては……!
 そうだ。デニス様にそんな失礼なことはできない!

 私は暴れまくる心を落ち着かせるために、深呼吸をした。
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