鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~
「ヴェルダー卿は、二年前に行われた王家主催の狩猟大会を覚えていますか?」
「はい。けれどあの時クイーンに選ばれたのは、ヘイゼル嬢ではなかったと思いますが」

 そう、狩猟大会は騎士から獲物を多く贈られた令嬢が、その年のクイーンに選ばれる。

「当時の私は十六歳で、騎士様たちから獲物を贈られる立場ではありませんでした。けれど兄に連れ出されて……」
「ヘイゼル嬢はクライド殿下の婚約者候補筆頭でしたからね」
「えぇ。社交界には出られなくても、狩猟大会は顔を覚えてもらえる絶好の機会だと、兄に言われて仕方がなく……」

 わざとではないけれど、これで私と兄の関係、ファンドーリナ公爵家の内情が、デニス様に伝わればいいと思った。

「ヘイゼル嬢は、あぁいう場はお嫌いですか? 令嬢の中でも嫌がる方はいらっしゃいますから大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。ヴェルダー卿もご存じだと思いますが、私は公爵令嬢ですが、メイドの子です。……だから、あまり暴力的なことだとか、血を見るのは苦手……いえむしろ怖いと感じてしまいます」

 私はテーブルの下で手を組んだ。

 今でも忘れない。義母が母に辛く当たりながら、「あぁなりたくなければ、言うことを聞きなさい」と言われた日のことを。
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