鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~
「全く、これくらいしないか」
「しかし……」
「騎士で護衛なら、これくらいしても変に思う奴はいないぞ」
「そうですか。ならば、ヘイゼル嬢。いくらでも俺を盾にして構いませんから」
「っ!」

 思わず二年前の狩猟大会で見た、デニス様の背中と重なった。あの時は座り込んでいたけれど、その大きさは変わらない。
 頼もしくて、思わずその背中に縋りたくなった。けれどあの時も今も、それはできない。

 兄と義母の前ではクライド殿下の婚約者を装わなくては、隙を与えることになる。この場は、クライド殿下が用意してくださった、道標なのだ。私自身が壊すわけにはいかない。

「さて、これで大体の状況が掴めたかな」
「何をおっしゃっているのですか? 妹が怯えただけで、決めつけるものではありません。なんの証拠もなく母を罪に陥れるような真似はやめていただきたい」
「本気でそうおっしゃられているのですか、ファンドーリナ公爵様。俺が何故、夫人に盾突いたのか。何も知らずに言ったとでも思うのですか?」
< 30 / 64 >

この作品をシェア

pagetop